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ブランチ:さあ、じゃあ今度はスタンリーがジョークを言う番ね。はい。 スタンリー:………。 ブランチ:ダメよ。はいって言って、愛想でも何か言わなきゃ。それだから教養のないネアンデルタール人なんて言われるのよ。ダメね。どうしたの? 二人して黙っちゃって。私がフラれたから? 私もこれまでいろんなタイプの男の方とおつき合いしてきたけど、こんなに見事にスッポかされたのは初めて。(笑って)ねえ。スタン。こういう場合どんなリアクションをすればいいのかしら? スタンリー:さあね。俺にはあんたみたいな教養はないからね。 ブランチ:ああん! もうダメね、ジョークで返さなきゃ。それじゃあ一つ、私がとっておきの、笑える小咄をしましょう。 ステラ:そう言えば昔はよく笑ったわね。 ブランチ:バカなことばっかり言ってね。 ステラ:うん。 ブランチ:さて、じゃあオウムの話です。みなさん、オウムはお好き? スタンは? フフフ……。では。昔々あるところに、一人の未亡人がオウムと暮らしておりました。ところがこのオウム、口を開けばのべつまくなし下品な言葉ばかり。まるでミスターコワルスキーそっくり。 スタンリー:フン。 ブランチ:そのオウムの口を黙らせるには、籠に覆いを被せるしかありませんでした。そうするとオウムは夜になったと思って眠ってしまうのです。ところがある朝、未亡人が覆いを取ったら…… スタンリー:開けてびっくり玉手箱。ドロンと煙りが現れて、あっという間にババアになってしまいましたとさ。チャンチャン。(と、残りのチキンをわしづかみにムシャムシャムシャムシャ) ステラ:ちょっとスタンリー。 ブランチ:ミスターコワルスキーはオウムが嫌いなようね。 ステラ:ミスターコワルスキーはオウムより、目の前のチキンに夢中なのよ。豚みたい。 スタンリー:その通り。 ステラ:口の周りも手もベトベトよ。洗ってきなさいよ。そのあとで片づけるのを手伝ってね。
スタンリー:ほら、片づけたぞ。どうだこれで? わかったら、そういう口のききかたはやめるんだな。豚だの、教養がないだの、ポーラックだの。差別語が多すぎやしねえか、この家は? おまえら姉妹、揃いも揃って何様だと思ってるんだ? ええ? ヒューイ・ロングの言葉を教えてやろうか? あらゆる男は王様である、ってんだ。この家の王様は誰だ? おい? ステラ?(と、さらにカップとソーサーを叩きつける)これで俺の分は片づいた。おまえのも片づけようか?(と、外に出て行ってしまう) ブランチ:お風呂に入ってるあいだに何があったの? ステラ:なにもないわ。 ブランチ:なにか隠してるでしょ? どうしてミッチが来ないのか、知ってるのね。いいわ。電話してみるから。 ステラ:やめた方がいいわ。ブランチ。 ブランチ:あなたが教えてくれないんだったら、直接聞くしかないでしょ。
ステラ:(スタンリーに)それで満足なんでしょ、あなたは? スタンリー:(煙草に火をつけて)なあ。ステラ…… ブランチ:あ。もしもし。ミッチェルをお願いします…… スタンリー:あの女さえいなくなればすべてうまくいくんだ。 ブランチ:いいえ。ミッチェルです。 スタンリー:子供も生まれる。また楽しくなるさ。 ブランチ:はい。あ。そうですか。でしたら、ここの番号を…… スタンリー:覚えてるだろ? 毎晩死ぬほど楽しかった。 ブランチ:いいですか? 《天国通り》9047…… スタンリー:また騒げるんだ。ベッドのなかで。色電球吊るしてさ。 ブランチ:はい。そうです。大至急とお伝え下さい。ええ、大至急…… スタンリー:どこの馬の骨かもわからないような姉さんが、カーテンの向こうで聞き耳立ててることもないんだ。 ブランチ:ええ。それでは。どうも……(と立ち尽くす)
ステラ:戻りましょう。……ブランチ! ブランチ:なあに? ステラ:ほら見て。(戻ってきてロウソクを火を灯し始める) ブランチ:もったいないわ、燃やすの。 ステラ:いいのよ。 ブランチ:とっておきましょう、赤ちゃんのために。……この柔らかな光が、いつまでもその子の人生を照らしますように。 スタンリー:(戻ってきて)たいした詩人だな。 ブランチ:(ステラのお腹に近づき)……この子の伯母さんにはわかっている。ロウソクの炎は永遠じゃないってこと。いつか燃え尽きて、さもなきゃ風に吹き消されて、そのあとには、裸電球の明かりが煌々と、そして夜は、味気ないものになってしまう……。電話なんかするんじゃなかったわ。 ステラ:きっと急用だったのよ。 ブランチ:それが言い訳になるの? 連絡もくれないで! スタンリー:クソ! バスルームの湯気で暑さ倍増だあ! ブランチ:ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! 何回謝れば気が済むの? 疲れた神経には熱いお湯が効果的なのよ。鈍感なポーラックには関係ないことでしょうけど。 スタンリー:差別語はやめろ!(テーブルを叩き)いいか! ポーラックなんていう人間はこの国にはいないんだ。この国で生まれ育った人間はな、みんな、アメリカ人っていうんだ。百パーセント! ブランチ:まあオレンジジュースみたい。
ブランチ:(立ち上がって)私だわ。 スタンリー:座ってろ! (受話器を取って)もしもし。ああ。マックか? ブランチ:(椅子にへたり込む) ステラ:ねえブランチ…… ブランチ:いいのよ、ステラ。 ステラ:ブランチ。 ブランチ:放っといて! スタンリー:うるせえ! 黙ってろ! ……いや、ウチに騒々しいメス犬が一匹いるもんでね。で? ……だからライリーんとこはダメだって言ってるだろ! 厄介なのはごめんだ。ダメだダメだ。ウエストサイドか、ゲーラだ。あん? ああ、そういうことだ。じゃあな。(と、切る)フン。(ブランチを見て)ああ、そうそう。なあ、ステラ、プレゼント渡すの忘れてたな。 ステラ:………。 ブランチ:まあ。 スタンリー:気に入ってくれるとうれしんだけど。 ブランチ:そうなの? 期待もしてなかったわ。だってもう27よ。今さら誕生日なんてって思ってたから。 スタンリー:27! ブランチ:でも嬉しいわ。なにかしら? スタンリー:(ポケットから封筒を出して)さあねえ。 ブランチ:(中身を取り出し)………。 スタンリー:ローレル行き。今度の火曜日だ。
ステラ:(耐え切れずに背を向ける) ブランチ:(ベッドまで歩いていって崩れる。と、口を両手で覆ってバスルームへ。吐いている) スタンリー:フン。 ステラ:残酷だわ。 スタンリー:あのわがままにいつまでも振り回されるよりゃ、マシさ。 ステラ:あんたは知らないのよ。少女の頃のブランチを。 スタンリー:知ってるさ! ……昔々あるところに、それはそれは繊細でか弱い少女がおりました。ところが開けてびっくり玉手箱。あっという間にババアになってしまいましたとさ。チャンチャン。(と、カーテンを開けて着替え出す) ステラ:違うわ! まっすぐで堂々として、自信に満ち溢れてたのよ。それを、あんたみたいな男たちが寄ってたかって台なしにしてしまったんだわ! スタンリー:おまえ、初めて会ったとき、俺のことを下品な奴だって思ったろ? そうさ、その通りさ。俺はウジムシのように下品さ。おまえはいつもバカでかい屋敷の写真を持ち歩いてた。俺はそのバカでかい世界から、ウジムシの世界におまえを引きずり降ろしたんだ。喜んでたじゃないか。色電球いっぱい吊るして。 ステラ:(口をおさえて、椅子の背にうずくまる。と、テーブルの端にもたれ、そのまま崩れ落ちる) スタンリー:楽しかったろ? 俺たち。うまくやってたじゃないか? あの女がくるまでは……、おい、ステラ? ステラ:病院に連れてって。 スタンリー:(電話にしがみついてダイヤルを回す)
ブランチの声:(バスルームからの漏れ明かりとともに) |