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男1の声:Anythig wild this deal?(狂ってる?) 男2の声:One-eyed jack are wild.(片目のジャックさ!) スタンリーの声 くそ! 腹へったなあ! 男1の声:Give me two piece.(パイが食いてえな) 男2の声:Go to the Chinaman's and bring back a load of chop suey!(中華街へ行ってチャプスイ買って来いよ) 男1の声:チャプスイ! チャプスイ! スタンリー:おいミッチ! やるぞ! 男1の声:チャプスイ! チャプスイ! ミッチ:そろそろ帰ろうかな。 スタンリー:早く来い! ミッチ:おふくろの具合が良くないんだ。 男1の声:ママー! ママー! ミッチ:帰らなきゃ。 男2の声:アッハッハ。アッハッハ。
スタンリー:勝ち逃げかあ? ミッチ:ちょっとトイレ。(とバスルームに消える) 男1の声:モレチャウヨ! オシッコ、モレチャウヨ! スタンリー:ママのおっぱいなんか思い出してんじゃねえぞ。 男1の声:ママー! ママー! 男2の声:アッハッハ。 スタンリー:(カーテンの向こうに戻る)
ブランチ:もうダメ。ステラ。息が上がっちゃって! ステラ:まだやってるわ。あの人たち。 ブランチ:ちょっと待って。(とコンパクトを出して顔を直し出す) ステラ:大丈夫よ。ブランチ。かわいいわ。デイジーみたいに。 ブランチ:さしずめ暑さで萎れたデイジーってとこね。 ステラ:(部屋に入って行って)スタン! いつまでやってるの? スタンリーの声:勝負にケリがつくまでだ! 男1の声:ケリヲツチマエ! ケリヲツチマエ! ステラ:(さらにカーテンの向こうに首を突っ込んで)もう2時よ。いい加減にしたら? スタンリー:(顔だけ出し)ケリがつくまでだって言ってるだろ? ええ?(と、ステラのケツにケリを入れる) ステラ:ちょっとなによ! やめてよ! 男2の声:アッハッハ。アッハッハ。 ステラ:もう! あったまくる! ブランチ:私シャワー浴びてくるわ。:: ステラ:また?
ブランチ:あら。 ミッチ:あ。どうもすみません。 ステラ:まあミッチ。 ブランチ:いいえ。こちらこそ。 ミッチ:どうも!? ブランチ:アタシの姉さん。ブランチ・デュボア。こちらはハロルド・ミッチェル。 ミッチ:はじめましてミス……、デュボア。(と握手を求めるが) ステラ:お母さんの具合はどう? ミッチ:ああ。カスタードクリーム美味しかったって。喜んでたよ。じゃあ。(と振り返りつつカーテンの向こうに戻っていく) ブランチ:あの人はまともそうね。 ステラ:ええ。
ミッチ:これトイレの。持ってきちゃった。(と、タオルを渡してまた戻る) ブランチ:フフフ。繊細な感じがする。 ステラ:お母さんが病気なの。 ブランチ:まあ。それで? 独身?(と、着替え始める) ステラ:独身よ。(同じく着替え始める) ブランチ:仕事は? ステラ:スタンリーと同じ工場の精密検査係。 ブランチ:(下着姿のまま)それってかなりいいポストじゃないの? ステラ:(同じく)冗談! スタンリーだけよ。先行き見込みがあるのは。 ブランチ:まさか? アレのどこに見込みがあるの? ステラ:見てわからない? ブランチ:ぜんぜん。 ステラ:よく見たことないのよ。 ブランチ:そうかしら?(と、カーテンからそっと向こうを覗く) ステラ:どう? ブランチ:……口をポッカリ開けてなんか考えてる。サルみたいよ。 ステラ:今はダメよ。ただの酔っぱらいだもの。 ブランチ:酔いが覚めたらアレがいっぱしの人間に進化するんだろうか? ステラ:パワフルさじゃ誰にも負けないわ。疲れってものを知らないの、あの人。ブランチ! 向こうからまる見えよ! ブランチ:きゃあ!(と慌ててカーテンから離れる) ステラ:アハハハ! ブランチ:タダじゃもったいないわよね。 ステラ:そうよ。アハハハ! スタンリーの声:うるせえぞ! ステラ:なによ! 聞こえてないくせに! スタンリーの声:俺の声はちゃんと聞こえてるだろ? 静かにしてろ! ステラ:アタシの家よ! 何しようがアタシの勝手よ! ブランチ:ステラ。やめなさいよ。 ステラ:だから酔っ払いは嫌いよ。顔洗ってくる。(と、バスルームに消える)
スタンリーの声:誰だ? ラジオなんか! ブランチ スタンリーも声:消せ! 男1の声:Sure, that's good, leave it on! (ほっとけよ!) 男2の声:Sound like Xavier Cugart!(ザビエル・クガートだ!) 男1の声:ザビエル・クガート! ザビエル・ク――
ミッチ:スタン。 スタンリー:おまえは座ってろ! ミッチ:ちょっとトイレさ。 スタンリー:またかよ。 男1の声:オシッコ、モレチャウヨ。モレチャウヨ。ママー! ママー! スタンリー:(ブランチをにらみつけて戻っていく)
ブランチ:今使用中なの。ごめんなさい。 ミッチ:いや。いいんです。ビールってのはどうも回るのが早くって。 ブランチ:だから嫌い。ビールって。 ミッチ:でも暑いときにはいいんですよ。これが。 ブランチ:でも品がないわ。ねえ、あなた煙草持ってらっしゃる? ミッチ:ええ。 ブランチ:なにかしら? ミッチ:ラッキーですけど。(と、シガレットケースごと渡す) ブランチ:(渡されたケースを見て)まあ。きれいね。これシルバー? ミッチ:ええ。ちょっとそれ、読めます? ブランチ:なに?(手許が暗い) ミッチ:(マッチを擦って照らす) ブランチ:どうもありがとう。 ミッチ:「神の御心とあらば、またあなたを愛しましょう。たとえ死んでも」 ブランチ:まあ、ミセス・ブラウニングね! 私の好きな詩よ。 ミッチ:大切な思い出なんです。 ブランチ:それはそれは、素敵な恋だったんでしょうね。きっと。 ミッチ:哀しい恋でした。 ブランチ:そお。 ミッチ:死んだんです。その子は。 ブランチ:そう。そうなの。 ミッチ:わかってたんです。それをくれたとき、もう死ぬってわかってたんです。おかしな子でした。でもきれいな子でした。 ブランチ:あなたのことが好きだったのね。その子。人間って病気になると素直に自分をさらけ出せるものなのよ。 ミッチ:そうです。本当にそうです。 ブランチ:哀しみがケガレた心を洗い流すから。 ミッチ:そうなんです。それが人間なんです。 ブランチ:少ないわ。そのことをわかってる人は。 ミッチ:でもあなたにはわかるんですね。 ブランチ:ええ……。けど大抵の人はそんなことおかまいなしね。無神経でケイヒャクで……、アラ、もう! 口が回らないわ。あなたたちのせいよ。ショーは10時に終わったのに、帰れないでしょ。途中パブに寄ったら三杯も飲まされて。私二杯が限界なのに。(と椅子にもたれるように) ミッチ:ああミス…… スタンリーの声:ミッチ! 何やってんだ? ミッチ:抜かしといてくれ! ええっとすみません。ミス…… ブランチ:ミス・デュボア。フランス語で森っていう意味。ブランチは白。だから白い森なの。春のリンゴ畑みたいでしょ。 ミッチ:なるほど。じゃあフランスが原産なんですか? ブランチ:ええ。もとを辿ればね。 ミッチ:それで、ステラとはその…… ブランチ:姉妹関係。フフフ。彼女の方が少し年上なの。よくあるでしょ。複雑な家庭の場合……。 ミッチ:ええ。まあ。 ブランチ:ねえ、お願いがあるんだけど。 ミッチ:はい。 ブランチ:あそこの電球にコレ、かけてくださらない? ミッチ:なんですか? ブランチ:(と、紙提灯を出して)さっきチャイナタウンで買ってきたの。 ミッチ:ええっと。(と、受け取ってテーブルにのぼる) ブランチ:嫌いなの。裸の光って。野暮ったくって品がないでしょ? ミッチ:(取りつけながら)さしづめ、ボクたちのこと、野暮な連中だって思ってるんでしょうね。 ブランチ:アラ、そんなことないわ。 ミッチ:学校の先生だって聞きましたけど? ブランチ:ええ。そう。淋しい淋しい学校教師よ。 ミッチ:え? なんでです?(と、降りてきて) スタンリーの声:ミッチ! まだかよ! ミッチ:今行くったら! ブランチ:まあ。すごい肺活量! びんびん響いたわ。 ミッチ:何を教えてるんですか? ブランチ:当ててみて? ミッチ:音楽? いや美術? ブランチ:フフフ。 ミッチ:それとも数学かな? ブランチ:まさか。九九もろくに知らないのに? ミッチ:なんだろう? ブランチ:「神の御心とあらば、またあなたを愛しましょう。たとえ」……たとえ私の担当が英文学で、ルーズソックスのジュリエットや、ドラッグストアにたむろするロミオたち相手に、ホーソーンやホイットマンの面白さを教えることがいかに困難でもね。 ミッチ:あいつらはいつだってくだらないことで頭がいっぱいなんですよ。 ブランチ:そう。その通り。でも若いって素敵よ。ドキドキするわ。春になって恋を覚え始めたあの子たちを見てるとね。 ミッチ:そうですか? ブランチ:まるで自分が、世界で初めて恋というものを発見したんだって顔してるのよ。フフフ。(とラジオのスイッチを入れる) ミッチ:アハハハ。いいなあ。
ブランチ:そうなの。ドキドキしてくるの。(いっぱいに音量をあげて)踊りましょう?
スタンリー:(飛び込んできて)いいかげんにしろ! 騒ぎたいならオモテで騒げ! ホラ!(と、ラジオを窓から放り投げる)
スタンリー:近所迷惑もはなはだしいぞ。 ステラ:(バスルームから駆け込んで来る)酔っぱらい! 酔っぱらいの、ケダモノ! (カーテンの向こうに入って行って)もう帰って! みんな帰って! あんたたちには常識ってものがないの! スタンリー:(飛びかかるように追いかけて行く) ブランチ:ステラ! ステラの声:(カーテンの向こうで)なによ。ぶちたかったら、ぶちなさいよ! ふざけんじゃないわよ! この酔っぱら……
男1の声:ママ! ママ! ママ! 男2の声:アッハッハ。アッハッハ。 ブランチ:(ミッチに)あの子のお腹のなかには赤ちゃんがいるのよ! ミッチ:そりゃ大変だ。(飛び込んでいく)スタンリー! ブランチ:狂ってるわ。キチガイだわ。 ミッチの声:スタン。落ち着けよ。 ステラの声:出てくわ! 私。出てくわ!
ミッチ:(戻って来て)だから言ったんだ。女のいるところで本気になるなって。 ブランチ:ステラの服どこにあるか知ってる? ミッチ:いや。さあ? ブランチ:なんでもいいわ。(と、適当な引き出しを開けて)ちょっとどいて。ステラ!(と、連れに行く)もういいのよ。怖がらなくても。大丈夫よ。今夜はとなりの人に頼んで泊めてもらいましょう。(連れて来て)もうこんなところにいる必要なんかないわ。どこか遠くへ行きましょう。何とでもなるわよ。二人なら……
男1の声:バン! バン! バン! ウッ。ヤラレター! 男2の声:アッハッハッハ。 スタンリーの声:(バスルームから)出てけ! おまえらもみんな出てけ! ミッチ:だから言ったんだ。女のいるところで本気になるなって。(部屋を出て行く)
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