![]()
スタンリー:いつまで入ってんだ? あの女。このクソ暑いのに。 ステラ:熱いお湯に浸かった方が、夜が涼しいんだって。 スタンリー:ふーん。おまえちょっと座れよ。 ステラ:なによ。忙しいのよ。 スタンリー:いいから座れよ。あの女に関する新情報だ。 ステラ:やめなさいよ。もうそんなこと。 スタンリー:驚くべき真実って奴さ。 ステラ:バカバカしい。 スタンリー:聞いてたらぶっ飛ぶぜ! あの女の正体。
Say, it's only a paper moon,(たとえ紙のお月さまでも) スタンリー:ったく、たいした歌姫だぜ。……いいか、俺だってわざわざローレルまで行って、苦労したんだ。だが、確証はつかんだ。 ステラ:なによ? 正体って? スタンリー:話は2つある。ひとつは、あの女の男関係。……知ってるか、おまえ。あの女、ミッチの前じゃあキスも知らねえような純情ブリっ子で通してるんだぜ。だが、しかしだ、真実を聞いたらあきれかえるぜ! ステラ:誰からなにを聞いたのよ? スタンリー:ウチの工場の仕入れ係にさ。奴は仕事でずっとローレルに通ってる。あの女、ローレルじゃあちょっとした有名なんだ。大統領顔負けの知名度さ。ただし、どの党派からも信任されちゃいないがな。 Barnum and Baily world ,(ステキなサーカスも) スタンリー:それで、その仕入れ係の常宿がホテルフラミンゴだったってわけだ。 ステラ:ホテルフラミンゴ? スタンリー:あの女が泊まってたホテルだよ。 ステラ:ブランチはベルリーブにいたのよ。 スタンリー:だから、そのベルリーブが借金の形に差し押さえられたあと、ホテルフラミンゴに移ったのさ。 ステラ:ええ? スタンリー:開けてびっくり玉手箱! これが、なんと場末の連れ込みホテルだ。どんないかがわしいことにも御利用可能ですってとこさ。ところがだ、さすがのホテルフラミンゴも、ブランチ嬢にだけはホトホト手を焼いたらしい。ついに、お部屋のカギをお替えし下さいと申し出た。ここにくる二週間前の話だ。 ステラ:なんのことやらさっぱりだわ。 スタンリー:騙されてんだよ。おまえもミッチも、あの女の見せかけに。 ステラ:もういいわ! Without your love,(あなたの愛がなかったら) スタンリー:早い話が、あの女はなり振りかまわず男を漁ってたんだよ! ところどっこい、どんなバカな男でも2、3回やりゃあ、相手がわかる。困ったブランチ嬢は必死になって次を探す。探し出しては同じ芝居、同じ台詞、同じたわ言のくり返しだ。だがしかし、派手にやるにゃ、あの街は狭すぎるんだな。ついに誰からも相手にされなくなっちまった。この女は病気ですよってわけだ。 Say, it's only a paper moon,(たとえ紙のお月さまでも) スタンリー:もうどこにも居場所がない。それで、ここに逃げてきた、と。以上。あの女の純潔さに関する報告だ。さて、お次はあの女…… ステラ:やめて! 聞きたくない! スタンリー:二度と教師にはなれないって話だ。 ステラ:どういうこと? スタンリー:臨時休業なんて真っ赤な嘘さ。真実は、教職免許の剥奪。要はお払い箱さ。 ステラ:なにかしたの? ブランチが? スタンリー:よっぽど男に困ってたんだろうな。よりによって、自分の生徒に、17歳のガキに手を出しちまった! Barnum and Baily world ,(ステキなサーカスも)
スタンリー:そいつの親父が、校長のところに怒鳴り込んで、すべてが発覚。今度ばかりはブランチ嬢もごまかしようがない。ローレル市長から正式な退去命令が出された。 ブランチ:(バスルームから顔を出し)ステラ! もう一枚タオル貸してくれる? ステラ:は、はい。(慌ててタオルを運ぶ) ブランチ:どうしたの? 顔色よくないわよ。 ステラ:ちょっと疲れてるのよ。 ブランチ:あなたもひと浴びしたら? もうすぐ出るから。 スタンリー:もうすぐってのはどのくらいだあ? ブランチ:焦らないでスタン。焦りは諸悪の根源よ。 スタンリー:俺のションベンが漏れてみろ。てめえこそ諸悪の根源だ! ブランチ:(ピシャリとドアを閉める) スタンリー:ヘッヘッへ。 ステラ:でも……、その仕入れ係って人は、卑怯よ! そんなことをわざわざ告げ口するなんて。きっと全部が全部本当じゃないわ。 スタンリー:(口笛を吹いている) ステラ:確かに、ブランチって、わがままで思い込みの強い人よ。 スタンリー:そのわがままが通用しない世界があるってことさ。 ステラ:だけどあの人には辛い過去があるのよ……。 スタンリー:どんな? ステラ:例の結婚……。ブランチは、まだ本当に素直な女の子で、相手の男の子は、詩を書いたりするものすごい美少年で、ブランチは、その子のことを心から崇拝していたのよ! まるで神様みたいに! ……だけどある日見ちゃったの。 スタンリー:見たって? なにを? ステラ:その子がゲイだったって現場を。そんな話はしなかったんでしょ? その仕入れ係は? スタンリー:最近のことだけさ、話したのは。昔のことだろ、それは?
スタンリー:何本立てるんだい? ステラ:25本。それ以上は永遠に増えないわ。 スタンリー:ほかに誰か来るのか? ステラ:ミッチを呼んであるけど。 スタンリー:……。ミッチは来ないだろうな。 ステラ:どうして? スタンリー:いいか、あいつは俺の親友だ。軍隊でも一緒だったし、今も同じ仕事場で働いてる。 ステラ:あんた、今の話をミッチにしたの? スタンリー:ああ。したよ。
But it wouldn't be make-believe(でも嘘じゃない) スタンリー:なにもかも終わったわけじゃないさ。 ステラ:ブランチは、……ミッチが結婚してくれると思ってるのよ。あたしもそうなってくれればいいなって……。 スタンリー:まずないだろうな、結婚は……。ああいう女とはな。(とバスルームに向かって)おい! ブランチ姉さんよお! そろそろトイレを使わせちゃあもらえませんかねえ! ブランチの声:あとほんの数秒よ。いま体を拭いてるところだから。 ステラ:でも働こうにも免許もなくってどうするんだろう? スタンリー:バスの切符、買っといたからな。火曜日だ。 ステラ:そんなの無理よ! スタンリー:無理でも出てってもらうさ。 ステラ:今さらどこに行くっていうの? スタンリー:決まってるだろ。(バスルームに向かって)おい! いい加減にしろ! ブランチ:(出てきて)ああ。いい気持ち。 スタンリー:(入れ代わりに駆け込む) ステラ:(キッチンに逃げる) ブランチ:熱いお湯から出てると身も心もとろけそうよ。 ステラの声:ええそうね。 ブランチ:そうよ。(ハイボールを一口)そして、火照った体のなかを流れる冷たい液体。この一口で、なにもかも生まれ変わり、真新しい人生がこれから始まるんだわって気分になれるのよ。どうかしたの? ステラの声:(泣いている)なんでもないわ。 ブランチ:嘘。なにかあったのね……。
|