NO.4

 

あたし、あの人が好き! 前よりもずっと好き! 短編の題材……。でも好きなのよ! どうしようなく好きなのよ! 死ぬほど好きなのよ! 昔はよかったわね、コースチャ、覚えてる? のどかで、あたたかで、楽しくって、無邪気だった、わたしたちの人生。やさしい、あでやかな花のような感受性……。覚えてる?

 チェーホフの物語のなかには、嗚咽のような切実さで、青春を懐かしむ人々がたくさん出てくる。時には、彼女、彼らは、失われた人生をさえ呪う。まるで、なにかを失うこと、それこそが人生であり、人であるというふうに……。
 いつしか、かならず、若者は大人になり、少女は女になるのだ。あともどりはできない。そういう時の流れのなかで、いったい人は、なにを失うのだろう?

 ニーナは叫ぶ!
「あたし、あの人が好き! 死ぬほど好き!」
青春の甘い感傷はもうない。ドキドキするような恋のきらめきも、無制限に広がる夢も希望も、もうない。ただ、人生に対する切実なあがきのようなものがあるだけだ。失いたくないのよ! だから叫ぶ!
「好きよ! 好きよ! 好きよ! 好きよ!」
こういう切羽詰まった雄叫びを、人はけっしてバカにすることはできないだろう。
「あたしはカモメ! あたしはカモメ! あたしはカモメ!」
これも同じ叫びだ。人は、時とともに失われてゆくものを、別の形で取り戻そうとするのかもしれない。

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