葵上(あおいのうえ)
御息所:昨日の花は、今日の夢と散ってしまう……。それに気づかないのは愚かです……。生きる悲しみに、恨みの念が重なって、苦しい、わらはのこの胸の内を、すこしのあいだでも慰められればと、あの、梓の弓のね音に惹かれ、やってきました。けれど、なんと恥ずかしい、この姿……。この愚かしい破れ車も、なにもかも、あの賀茂のお祭りの、あの時のまま……。ああ、なにをいまさら、月を眺めて泣き明かすとも、月の光はこの身を照らしはしないのだ。あの弓のね音に取り憑いて、辛い気持ちを吐き出してやろう……。