2002.June

6月30日(日)

 昼間、tptのディレクターのワークショップのためのインタヴューに出かける。かなり気合いを入れて出かけたのだが、コーディネーターのDavid Gothard氏が不在のなか、プロデューサーの門井さんと参加者のほぼ半数とで、そろって話し合いのような感じ。まだ、海のものとも山のものともつかない感じ。まあ、顔を合わせるというためだけの時間。
 どうなることやら。
 12日から3週間かけて行われる。毎日、ここで報告するつもり。

 そして、夜はついに決勝戦である。

 試合も良かったのだが、ああ、終わった――。
 という感慨が深く襲ってきた。多くのサッカーファンやワールドカップファンが同じ気持ちだったのではないか。
 これはみんなと同じ気持ちだな、と思うことがあまりないボクとしては、実に「一般的に」「フツーに」ワールドカップにワクワクドキドキしたなあ。人より、強く心に入ってきてしまった瞬間もあるけど、おおむね、みんなと同じだったような気がする。その同じ気持ちをできうるかぎり、分析的に見つめようとしていたフシがあるけど。
 クライフさんがなんと言おうと、ブラジルは楽しいサッカーをしていた。いや、正確には、個個人が楽しむサッカーをしていたと思う。組織の力というが、いわゆる統率されたものとは違う、仲の良さと呼吸のあったところがあったではないか。やはり、精神的な中心としてもロナウドがいなければ勝てなかったように思う。なんでんかんでん、みんなロナウドが大好きなのだ。

 勝つためのサッカーと楽しむためのサッカー。
 簡単には割り切れないけれど、どうも気になる分岐点だな。
 それが最後の問題だった。

6月29日(土)

 赤坂のトルコ料理店で、トルコ対韓国の試合を見る。
 同じことを考える人々はいるもので、狭い店内は満員の熱狂。みんな日本人の客だけどね。でも、みんなもちろんトルコびいき。コックからボーイまで店の人はターキッシュ(女の子ひとりだけが日本だった)。こうなると見方もガゼン変わってくる。
 そして、いきなりの先制!店中がガゼン沸き立った。
 メガネを忘れたので、小さなテレビがよく見えなかったんだけど、でも韓国もトルコもすばらしい闘志で戦っていた。
 ケバブも旨かった。二人でワインをニホンもあけてしまった。ちょっと高くついたが、文句なし。

 さあ、今日は決勝戦です。これでお終いですよ!

6月26日(水)

 ブラジルvトルコ(1-0)
 一次リーグからボクはずっとブラジルが優勝すると推していたのだが、今日の試合では思わずトルコを応援してしまう。
 個人技とコンビネーションと闘志。トルコは人を惹き込むサッカーをしていた。セネガル戦からそうだったが、今夜も余程カッコよかった。とにかくよく動きよくボールをさばくハゲのハサン。それから、ドイツ移民で冷静かつアグレッシブなバス・トゥルク。途中出場のモンゴル系らしきイルハンもいい。名前は忘れたけど、右サイドのモヒカンの奴もグッド。パルマファンとしては、ハカン・シュキュルに一発決めて欲しかったんだけど(おしいボレーがあった!)。

 審判のニールセンさんも素晴らしかった!

 こうして見ると、東西の交流点イスタンブールとは、よくいったものだ、トルコチームにはいろんな人種が混在している。イスラム教徒もいれば、そうでないのもいるのだろう。不思議な魅力を持ったチームである。
 もちろん、ブラジルの魅力も捨てがたい。あれはもう、本気で田舎者の魅力だ。みんな、いつでもニコニコしながらやっている。まるで、畑を耕しているオジサンみたいだ。そこがいい。(彼らにとって日本は第2の故郷だしね!)

 そういうワケで、決勝戦は無難に、ヨーロッパv南米となった。

 トヨタカップみたいなもんだな。
 どちらのチームにも準備バンタン、贔屓のない、中立な試合を贈ってほしい。

 残念なのは、好きなバラックが出られないコトくらいだろうか。
 一方、リバウドの調子はどんどん上がってきた。
 さあ、どうなるか?
 どうコロンでも、2002年日韓共催ワールドカップの決勝ナノダ。

 その前の、韓国vトルコの3位決定戦も面白くなりそう!

6月25日(火)

 ヨーロッパらしいふるまいというものがある。
 たとえば、ドアを開けるときは後ろの人に配慮するとか、肩が触れたら、一言声をかける、ないし笑顔を投げかけるとか。
 その行儀の良さに、当地のアジア人などはドギマギしてしまうものだが、しかし、一方で、ジャッジの裏をかく、ポルトガル語でいうマリ−シアにも長けている。赤信号だろうが、車道だろうが、個人の判断で闊歩する。

 韓国の試合を見ていてあらためて思った。
 こいつらは初めて、ヨーロッパ的でないふるまいのサッカーを前面に押し出して勝とうとしている、と。
 自軍のDFが負傷してうずくまっていようが、ボールは蹴り出さずに攻撃を続ける。接触して相手を倒しても、手を貸そうとはしない。蹴り出して、返礼でボールを返しても、拍手をしないサポーター。
 当たり前である。こういうふるまいはすべてヨーロッパ的な文化なのだから。アジアの礼儀にはないふるまいだからである。
 それでも、100万人の群集が掃除をして帰るところがアジア人なのだ。
 宝石を万引きした外国人選手に手紙と謝礼を送るのが、儒教的な国民なのだ。
 韓国選手のふるまいを見ていると、南米の選手などは、よっぽどヨーロッパナイズされているンだなあ〜、ということが分かる。
 礼儀、というものは各国それぞれの文化だ。
 しかし、一応、サッカーはヨーロッパの礼儀で進めるということになっているのだな〜ということにも改めて気づいた、というワケ。

 まあ、仕方がないよね。柔道にだって、日本的な礼儀が形式的に残っているくらいだから。

 かといって、韓国の人がヨーロッパを軽視しているというわけじゃないよ。一般的にはその反対だと思うけど。

 しかし、ヒディングは、勝つためのサッカーを伝えたのであって、ヨーロッパ的なサッカー文化を伝えたのではなかったというコトだ。
 しかして、トゥルシエは、勝つよりも、文化的な側面で日本と戦い、そして、その結果として、彼自信が非常に日本を好きになったということだろう。
 だって、ヒディングはぜんぜん韓国人の顔はしてない。
 関わった時間の差もあるけど。

 韓国vドイツ(0-1)。
 こうして、また、ワールドカップの大きな1ページが終わる。
 韓国国民の国民的行事も終わる。
 日本のマスコミも気を使わずに報道できる。
 残りはあとわずか。
 雨だけが降り続く――。

6月24日(月)

 明日は韓国vドイツ戦。なんと準決勝である。
 実に、韓国国民の6分の1に当たる700万人が街頭へ繰り出すという。
 これは朝鮮戦争以来の大きな国民的事件であろう。
 おそらく、日本の多くのサポーターもこういうような事態を切望していたのだ。だから、これは大いに羨ましがっていい。
 人々は、特に若者は(ボクも含めてね)、大きな国家的な事件というものを、いつでもとても強く熱望している。とりわけ、戦後に生まれた世代は、そういうものを経験していない。そういう事態に巻き込まれることは日常の鬱積した退屈さを吹き飛ばすだけでなく、国民的な存在として「自分が何者であるか」をわからせてくれるような気にさせてくれるからだ。
 しかし、それはすべて幻影である。
 そういう大規模な事件はすべて人々が生み出す幻影である。
 そうした幻影が加速して肥大していく恐ろしさを、骨身に沁みるほど知ってしまった、ボクら日本人は、けっしてそうはならないであろう、周到な文化的装置を持っているのだ。
 残念ながら、このことが勝つためのメンタリティーと比例しているのだが、しかし、だからこそ、隣国の盛り上がりを大いに羨望すればいい。
「いいな! くやしい〜!」

 助成金の申請書を作る。手紙を書く。

 現在、もはや25日未明の闇夜。
 犬は先に寝てしまった。

6月23日(日)

 マンションの管理組合の理事を引き受けて、日々の仕事が増えてしまった。
 こういう類いの仕事はテキトーにやればテキトーに済むのだが、本気になるとけっこうやっかいなものである。して、いざ引き受けてみると、結局本気になってしまうのだった。ビジネスとは無縁の、「地域住民のルールつくり」というような問題で、ウチのマンションは63戸あるので、なかなか合意形成にしても、なんにしてもいろいろな人はいて難しい(らしい)。面白い勉強である。

(ちなみにボクは、ただ、親名義のマンションを間借りしている身なので、けっして、オーナーではない)

 今日は日曜日、夕方に起きて、細々と仕事をする。
 金もうけのための労働ではない。人生を楽しむための仕事である。
 よって、日が暮れる。

 またもや、韓国の勢いにあおられた審判によって、スペインの2得点が不当に剥奪された。
 この問題は、かなり後に残るだろうと思う。
 ポルトガル、イタリア、スペインと続いたのだ。
 もう、ボクはこれ以上心を揺さぶれたくないので、さすがに試合を見なかったが、試合を見た弟から聞いた、例の疑惑のゴールシーンを、日本のテレビメディア各局は、ことごとくダイジェスト版の中で放映しなかった!(少なくともボクの見たかぎりでは。NHKは、スペイン側の抗議の場面すら放映しなかった!)これは一体どういうことだ!
 ボク同様、多くの日本人が、今の韓国に起こっている出来事を冷静に捕らえられなくなっている。
 共催国として、仲良くやろうという隣国として、国もメディアも韓国を気持ちよく応援しようという「意図」は分かるが、その理想はかなり苦しい。
 インターネットでは、若者たちが、韓国のやり方に、差別的な暴言を吐きまくっている。これもオゲレツだ。

 ひがみ、がないと言ったらウソになる――。

 とにかく、どうにも冷静に対処できないでいるのだ。

6月20日(木)

 新宿で甲斐と呑む。
 サッカー談義は尽きない。

 でしゅらのお尻の痛いのが直る。おそらく切れ痔? かわいそうに、痛くて、2日間座れなかったのだ。よって、やたら元気。ホッとする。

 漱石の文学論集から「職業と道楽」を読む。職業として働くというコトは、つまり、自己を殺して、他人におもねって働くコトなのです。
 商品社会=資本主義というコトだね。
 漱石の個人主義という価値観は残るけど。
 問題は、なにも変わっていないコトを知る。

 よって、寝る。

6月18日(火)

 今日、ボクのW杯が終わる。

 日本が負けた瞬間ではない。
 トッティが2枚目のイエローカードを喰らった瞬間だ――。

 W杯という夢は、嘘と消えた気がする。

 あいかわらず、きっと、サッカーは好きだろうが、もう明日からは心まどうコトもなくなると思う。
 国家間の戦いというのは、どんな意味でも、もはや美しいものではないノダ。
(去年のソルトレークのオリンピックでわかっていたはずだった)
 残念だが、そこに純粋なスポーツを追い掛けることはできないんだ。

 だって、選手たちの純粋で良い部分、激しく、美しい瞬間がどんなにつながろうと、最後に、どうにも許せない力がそれらをブチ壊してしまうじゃないか!
 いったい裏でどんな取り引きが、策略がめぐらされているのか?
 そう勘ぐってしまうコトすら、自分が悪いモノに伝染している証拠だ。

 くだらない。

 目を覚まさなければならない。

6月17日(月)

 やはり、いろいろな国や民族のいろいろなサッカーがあるなあ〜と、感動してしまう。

 セネガル対スウェーデン(延長の末2-1)。
 個人技対組織の戦い。どちらが勝ってもおかしくない試合。セネガル選手、特に、ディウフやアンリの自己主張にはどうしても目を奪われてしまうよな。もちろん、その個のプレー支える組織がセネガルにもキチンとあるのだ。あるから、生きるのだろう。これから楽しみ。セネガル。
 アンリのスピードもびっくりだが、ディウフのドリブルとフェイントが持っている独特のリズムにはホント震える。スウェーデンのDFがビビッてるのがよく分かった。それは「理解できない」からだ。

 スペイン対アイルランド(1-1、PKでスペイン勝ち)。
 これも素晴らしい民族同士の戦い。
 アイルランドは負けてしまったけれど、今回、このアジアの国に強烈なインパクトを残して行ったと思う。古き良き精霊の力、とでも呼べそうな、魅力。おそらく、ニッポンも含めて、世界中の先進国の人々が、かつては持っていて、今は生活の中から見失ってしまった何かを、彼らは未だに持っている。父親の生きている国。アイルランド。ダフのドリブル。ロイ・キーンのシュート。
 スペインは後半から、延長に入って、信条の攻撃的サッカーがまったく消えてしまった、という腑甲斐無さに、負けてもしかたなかったと思う。
 PKというのは、残酷だ。イタリアで苦しむメンディエッタが最後を決めたコトだけがボクの喜び。

 ブラジル対ベルギー(2-0)。
 しかし、内容は、ベルギーの攻めの姿勢が力強く、互角だった。
 ウィルモッツも頭のいい選手だ。
 それにしても、ブラジルの守備は悪いと言われるが、あれは悪いというより、お人好しなンだな。あれも民族性か。とりあえず、ペナルティーエリアの外では、相手の攻撃=サッカーというものを尊重し、それを事前につぶすとか、プレスをかけるとかいうことは性格として、したくないんだな。あれで、どこまで勝ち抜けるか、すごい楽しみ。ブラジルのサッカーこそ、アンチ・ヨーロッパ主義のホープだと思うし、そのブラジル主義の影響を日本はまだ持っているとも思う。
 もちろん、攻撃もワクワクしてくる。踊るようなリズム。
 コンビネーションにやや難があって心配だけど、個々はだんだん調子が出てきた感じ。リバウドの上手さ。ロナウドのパワー。ロベルトのスピード。それと、今日は左のデニウソンのスピードも光った。ロナウジーニョはやや一人でやりすぎ。ロナウジーニョって、ちょっと顔つきといい、自己主張の仕方といい、中村俊輔に似てない? 嫌いではないんだけど。

 サッカーて、スポーツだから、もちろん「勝ち負け」なんだけど、「表現」って部分がないとやっぱり面白くないや。
 さあ、本日、日本が未知の世界へ突入!
 ここからは、ノルマのプレッシャーもなく、一人一人が楽しんでプレーしてほしいと思う。

6月15日(土)

 一日、ぼんやりとFigoのコトを考えている。

 が、ワールドカップはどんどん進み、今度は、決勝トーナメントに入る。
 ここからはホントに落ち着いて、実力勝負の試合が見られるんだな、と思った。ドイツvパラグアイ(1-0)とイングランドvデンマーク(3-0)。

 ドイツvパラグアイは、どちらも人気キーパーのチーム。
 やはり、チラベルのFKの瞬間は見物だった。どちらも良い守備から、均衡した試合運び。後半、パラグアイは相手に攻めさせてのカウンターを狙っていたようだが、その間に1点を決められてしまった。
 でも力の拮抗した、いいマッチでした。

 イングランドvデンマークは、速い段階でBeckhamのコーナーキックから先制して、後は完全にイングランドのペース。イングランドも守備は強い。ああいう自信の守備を見せられると、さあ、あれをどこが破るのか、ブラジルか、スペインか、そういう期待を持ってしまう。あのまま、あの守備が動揺しないようでは面白くない。
 それにしても、イングランドサポーターはすごい。1万人は来ているそうで、イングランドの試合会場周辺は、ものすごいことになっているらしい。(これについては、知人からくわしいリポートが入ることになっている)。
 しかし、奴らはどこからチケットを入手しているんだろう?
 やはりしっかりした旅行会社がついているんかしらん?
 そして、なんといってもスゴイのは、豪雨の後、ハーフタイム中で、しっかり髪型を直してくるBeckhumクンであろう。

 それに日韓共催とはいえ、この時期に、キャンプ地を変えて、国境を越えてくるチームの方が大変だろうな、と思った。それでもドイツは勝ったけれど――。

 ただ、ボクは、ああ、決勝トーナメントが始まったな〜と、ぼんやりと思いつつ、とにかく、一日、やっぱり、ぼんやりと Luis Figo のコトを考えている。
 なぜ、あのフィールド上の彼にあんなに惹かれたのか?
 なぜあんなに彼が美しいと思えたのか?
 彼の過去のせい? カタルーニャの人々を裏切った過去のせい?
 あの理不尽な状況を背負いつつ、彼が考えていたコトを知りたいと思う。
 なぜか、切実に知りたいと思う。
 できれば、Figo本人に会いたいくらいに……。

6月14日(金)

 青い日本の、疑いなくすばらしい勝利に酔った後で、
 こんなにも嬉しいものなのかと、自分でも不思議に満足していた時間の後で、
 韓国対ポルトガル戦――。

 天国から、地獄へ。
 ドーンと、突き落とされたような気分だった。

 許せない、という気持ちが沸いたが、いったい何が許せないのかが分からない。ただ、口惜しくて、泣いてしまった。

 Figoが好きだった(そして今も彼のことを考えている)

 ボールを取るだけで大ブーイングが沸き起こる異常な韓国愛国者たちの渦。10人になり、1点先制されて、さらに9人になり、攻めるしかない。普通に歩きながらも足を引きずるようだった最悪のコンディションで、しかし、最後に全盛期のキラメキがFigoの下半身に宿る。韓国DFを1人、2人と抜き去った。そして、FK!――は、しかし、ポストに当たって外へ外れた――最後のチャンスだった。
 それでも、彼と彼のチームは、常に強い気持ちをクールに保ち、前へ前へ戦っていた。
 終わった時に、ふと思ったのは、彼ら、Figoとポルトガルの選手たちは、いったい何と戦っていたのだろう? 何と戦わされていたのだろう? ということだ――。

 引き分けでもOKな韓国だったが、しかし、負けるわけにはいかなかった。
 そして、あきらかに、赤いユニホームの韓国サポーターたちは、ポルトガルという名前に脅えていた。(現に一人のサポーターが、試合前に、願いを込めて、焼身自殺していた!アホか!)

 だが、はじまってすぐ、ポルトガル優勢という先入観はくつがえされ、韓国チームはシャニムに攻めた。狂ったようなスタンドの歓声に、あおられるように、赤いユニホームが突進する。しかし、ポルトガルはそれを受け止めるだけだった。何もできなかった。
 いったい、ポルトガルになにが起こっていたのだろう?
 ここですぐに僕には釈然としないものが残った。でも、誰も教えてくれない。
 いったい、ポルトガルは何者と戦っていたんだろう?

 試合後、部屋で、ひとりきり、グチャグチャな気持ちから、くやし涙がこみ上げてきて、鼻をすすり、背筋を伸ばす。
 Figoのキリリとした表情が見える。
 FKを外して顔を覆い、しかし、また目の輝きを取り戻して走り出した。
 あきらかに、彼はなにか別の次元のものと戦っていた――。

 そういうわけで、ボクはFigoへ手紙を書いた。

 書いた手紙をどこへ出そうかと、ネットで、Figoのサイトを調べていると、おそらく、彼のファンのサイトだろう、

 http://luisfigo.hihome.com/

 というサイトが見つかる。Massage to Figo というコーナーがあって、そこを開いて驚いた!
 すでに100通近い、メールが世界中から寄せられていたのだ――。
(その大半がが韓国人らしく、おそらくその数は今も増え続けているだろう)

(韓国の子たちはだいたいこんな感じ)
The Great match i ever seen.....Great 9 player.... i very impressed....Although...My country win the match.... 1:0
You Still the best Player in the world.... absolutely....!!!!!
I hope.. do your best in european Big Big Big match.... And Next German's world cup CHAMPION~~~~~~~~~~~~ ^^
Remember the onething.....

Dear. Figo
Hi! I'm korean.
Today game impress myself. I think that you and your team was good players.
I feel the lack of result of today game.
Because I felt wished that korea with portual gain the last 16.
I love your team and your country.
And I wish that your team gain victory to next world cup!
I hope that korea and portugal will remain great friends forever.

(これは中国の子たち、韓国のやり方にけっこう厳しい)
yes, the portugal team lost the match, but they win the respect from all over the world. People in China also have affection toward figo and his team. we love the way they play football. we love them all. unfortunately, i have to say, they were murdered by korea team, by the organizer and by the FIFA authorties.

what a brutal result!
like all you guys,here in China we have huge number of fans supporting Figo and his team. yes, Korea team won a match, but they have lost the respect from all over the
wrold. i feel ashamed of them.
figo is figo. go, go, go, Luis,,,,,,,,,,,,,

(ほかにもこれはドイツの子から)
Hello, my name is Jennifer , I'm 12 years old and I come from Germany ! I Love you soooo much , because you are the best player I ever saw ! please write back to my e-mail address

(パレスチナの子から)
Hi Figo,
I'm Rand, from Palestine, I like u very much
I'm very sad because u lost the match against Korea
the referee was cheeting very much and espicially when he gave the 2 red cards for pinto and beto.
But I'm very happy because I saw a nice and excellant player like you.
This match made me cry a lot but I knew that you or Nuno Gomes or even pinto who was fired would do something but...what can we do??!! Its not fair what happened and until now I can't believe that u lost this important game.
Thats all what i can say and these r my true feelings

(マレーシアの子から)
Hello,
I'm yasmin...from Malaysia...and I watched your game against korea...it was really bad...I hate that referee...he was not being fair...Anyway...throughout the game...you were great...and I love the way you dribble the ball...it was awesome...I just hope that you will not give up...because there are more games to come and more teams to defeat...be strong Figo...you're a great player...I will always support you and your team...

(これはポルトガルから? 誰か訳して!)
Oi Figo, apesar de ser brasileiro, torcia por Portugal. Foi muito triste a derrota de hoje. Podem falar da qualidade dos jogadores brasileiros, mas a era ps-Pel n縊 convence com esse jogo fraquinho.
Futebol de verdade s nos pa?es europeus.
Parab駭s pelo que foi demonstrado.
Foi uma grande pena a sa?a de voc黌.
Mesmo assim, valeu!
Boa Sorte!!!!

 というわけで、ボクは感動して、また泣いてしまった。
 この夜、世界中で、たくさんの彼のファンが生まれたのだった。
 だって、それくらいFigoはカッコよかったんだもの。
 最後に拙いボクの手紙を――

To may Samurai

I'm Japanese and an admirer of you, Figo.
On 14 June when Japan won the 3rd game, in the same evening I watch your play on TV.
You were fighting against Korea and red supporters missing two your players .
And your team, Portuguese team lost the game.
But I just saw you at that time.
You looked like an real samurai for me.
Your play and face swayed my emortion.
The strong figure of yours created great impressions on me.
You were everytime looking forward strongly encountering with big obstacles.
I saw something great on you.
I cried with great passion for you and your team.
Thank u. Thank u figo.
And I expect you to play good perfomance in the field everytime!
It's a message from this island, Japan, long long distance.
And I hope to go to Portugal, your home country, anytime!
Cheers up! Go! Go!
love you.

6月13日(木)

 やっとイタリアが同点に追いつく。1次リーグ突破を決める。
 やはり、イタリアも敗戦の後、フランス、アルゼンチンと来て、平常心ではいられなかった様子。先制点を取られて、さすがに焦りが見えた。
 インザーギがダメ。トッティーもダメで、交代で入れた、モンテッラからデルピエロと繋いで、やっとゴールネットを揺らしたのだった。

 今日の不思議。
 ゴールは決まってみると、やっぱり決まるような必然があったなあ〜、と納得がいくプレーがちゃんとつながっている。もちろん、ディフェンスのミスやPKなどの安易なゴールもあるけれど、ここで欲しい! というようなギリギリな劇的なゴールというのは、選手のイメージがとてもクリアだったな〜と溜め息がでる。ある想念から想念へと、サッカーボールはパスされていくのだし、そのほうがボクにとっては面白い。
 だから、とにかくゴール前へ放り込むようなロングボールは、あまり論理を飛ばし過ぎていて、ふっと肩透かしだ。
 それでもやっぱり、イタリアの攻撃で言えば、ヘッドで落としたビエリからインザーギへはある想念がつながっていないとシュートまでは行かないし、今度はインザーギがゴールに向かってクリアな想念を持っていないと、シュートは入らない、という理屈になる。

 日本の稲本の2つのゴールも、稲本自身が語っているように、チーム全体が稲本にクリアな想念を与えている。特に、2つとも柳沢からのアシストで、あの柳沢からのパスの中に稲本に力強いシュートを打たせた想念が入っていたのだ。
 昨年のイタリアとの親善試合での稲本-柳沢の美しいボレーもそうだった。
 この二人のコンビは、技術的には日本人のこれまでのレベルを遥かに越えつつ、内容はいかにも日本人らしい柔らい想念のパスとなっている。いいコンビである。
(そういう意味では、中田ヒデの冷たい想念のパスと相性がよく、それを受け止めらえるのは高原だったんだけどな。残念)

 フランスもアルゼンチンも再三、シュートを放ちながら、ことごとくゴールに嫌われた。やはり、想念というイメージがクリアに持てなかったのだ、一度も。ジダンやバティやクラウディオロペスといった超一流の選手たちでも、平常心を保つことは難しい。また、必要な集中力をつかむのはもっと難しい。そういうメンタルな問題は、一人でなんとかなるものではなく、チーム全体の中にはまって、いっしょに動いているからだろう。

(またもや舞台の演技と同じだと思ってしまう。クリアな想念なくして、観客をつかむことはできないし、そのための集中力は、一人ではけっして作れないのだ)

 残念ながらドリブルの時代はもはや完全に終わった。マラドーナの時代はもう二度とやってこないだろう。フィーゴもオーウェンもドリブルだけでは、ゴールまでは行けない。それ以上に、守備の能力が、危機管理の能力が勝ってきている。そこで守って、ロングボールもOKだが、結局は、そんな危機管理の裏をついて、ボールからボールへ、想念のパスを通さなければならないのだ。

 守る意識と、攻撃の意識は、ぜんぜん別物である。
 また、パスの意識とドリブルの意識もぜんぜん別物である。
 そして、初戦の意識と第3戦の意識もまたぜんぜん別の物なのだ――

 さあ、明日、日本は第3戦である。
 日本らしい面白さが出るか? 出して勝つか?
 それとも、焦って負けるか。
 とにかく首位という有利(アドバンテージ)は動かないんだから、ここで、ひとつ日本らしい面白さを出してほしいと思う。そうすれば、結局は勝てるし、もっと先まで進むだろうと思うのだ。

6月12日(水)

 またもや番狂わせ。アルゼンチンが敗退。
 さあ、決勝戦はフランス対アルゼンチンか、と言われていた両チームが、1次リーグで消えてしまった。よくあるコトではないと思う、このワールドカップにおいては。
 淋しい。あまりに淋しい。
 アイルランドの最後の死闘を見たかった……。見れば、なんらかの納得のしかたもできただろうと思うのである。フランス戦も同様だ。見ていないということは、サッカーの場合、どうにも釈然としないものが残ってしまう。誰がどんな解説や分析をしようと、なんにも言えないのだから。

 どうやら、今日のイングランドは本気でやってなかったらしい。トーナメントでの対戦相手のことも考えて、2位通過を狙っていたらしい。もはや敗退の決まったナイジェリアと戦って、0-0。つまらない試合だったらしい。見てないのでわからないが。
 それに比べて、夜のスペイン対南アフリカ戦はどうだ。すでに、トーナメント進出決定のスペインだが、すこしも手を抜かないのだ。攻めるコト、ゴールするコト、ボールを蹴るコト、すべてが好きで好きでしょうがない連中が、やっぱり試合すると本気でやっちゃうっていう、意外と面白いゲームだった。
 南アフリカも引き分けでOKだったのだが、スペインがガンガン攻めてきて、実際に点を取られてしまうので、やっぱり攻める。2度も追いついたが、3度目はかなわず。しかも、同時進行の裏のゲームでパラグアイが退場者を出し、1点取られたという情報、パラグアイが大量得点で勝たなければ、ぜんぜんOKなのだった、それが……、試合終了間際には、パラグアイは3-1で大逆転しているではないか。しかし、攻撃のかなめのフォーチュンとノムベデを交代させた南アフリカにはもはや攻撃の力はなかった。というより、パラグアイの実況をフィールド上の選手は知らなかったのでないだろうか。最後まで焦りもなければ、本気で攻めてはいなかった。終わってからもキョトンとしていた……。

 不思議なものだ。
 サッカーというゲームには、本気と中途半端の間にとても大きな距離がある。試合なんだから、みんな本気でやっているはずだと思うとそうではない。本気になろうと思ってもどうしてもチームの集中がつかめないときもあるし、あまり本気にこだわって熱くなっても、ラフになるだけで、冷静な相手にはあしらわれてしまうときも多い。試合の途中でモチベーションを変えるということは、よほど難しい。ほとんど不可能なのではないだろうか?

 極端な話、相手も攻めてこない、こちらも点を取る気もなし、ということになれば、なんにも起こらなくなってしまうのだった(当たり前か)。

 ところが、そうではない。
 そうでないことを、今日のスペインは見せてくれた。
 ボールを蹴るコト。攻めるコト。ゴールを決めるコトは、やっぱりそれだけで楽しいのだ。ボールがそこにあれば、蹴って、シュートしたくなってしまうのだ。
 学校帰りの子供が思わず、道端の石を蹴ってしまうように。下半身でもって何かがウズウズし、動き出してしまうのだ。
 そんな、サッカーの原点を教えてくれた気がする。
 もちろん、負けるのはヤダ。くやしい。という負けず嫌いもあるだろうけど。
 そういうモチベーションはそれだけでポジティブなものなので、見ていて楽しいものである。

 (舞台の上での役者の演技とよく似ているじゃないか!)

 どんな試合でもスタンドの観客を楽しませること、それが大切だ。それには、選手自身が、いつだって楽しまないといけない。
 そして、フランスもアルゼンチンもホントはそういう楽しいサッカーをするチームなのに、やっぱり返す返すも残念でしかたがない。

 最後に、ボクはどうしても、イングランド戦から突如、不調になったベロンのことが気になったので、ネットでいろいろ調べたところ、ベロンの故障を伝えるこんな記事が今日付けで載っていた。

 http://uk.sports.yahoo.com/020612/21/d0y3v.html

 イギリスのYahoo! のページ。
 これによると、ベロンは、手術をしなければならないほど、アキレス腱の持病がひどいらしい。今期のマンUからずっと1週間に2試合は不可能だったというのだ。だとすれば、納得が行くし、余分な憶測もしなくて済む。
 ナイジェリア戦のベロンがプレーは好きだったから。

6月11日(火)

 ついに1次リーグの最終戦。ここから毎日が修羅場だ。
 1次リーグ突破を決めていたのは、ブラジル、スペインの2チームのみ。セルジオ越後さんも言っていたが、こんな混戦は珍しいということだ。最後までどうなるかわからないのだ。

 そうしてA組では、今日、フランスは負けた。
 ものすごいショック。なんというか、大親友がある日突然一家夜逃げで、いなくなってしまって、もう会えない、そういうようなショック。
 それほど、フランスチームを強く応援していたわけではないが、ただボクはフランスという国が好きなので、あの国の美意識への豊かな知性のようなものがとても好きなので、悲しい。それに、フランスチームはほとんど移民の集まりだ。ジダンもテュラムもデザイーもアンリもトレゼゲもビエラも、それに白人の血を引いているリザラズやカンデラやミクーにしたって(偏見かもしれないけど)けっして裕福な階級の出身じゃない。かなり卑屈な地域からのし上がってきた連中だと思う。彼らの勝利はそのまま、フランス国内の民族状勢に影響を与えるのだ。先日の大統領選挙でジダンの発言が大きく報道されたように。しかし、この無得点無勝利の敗戦で、極右勢力がまた強くならないといいと思う。とても、悲しい事件だった。
 信じられない。

 ウルグアイも応援してたので、悲しい。でも、セネガルだって、アフリカの楽しいプレーをしてくれるだろうから、応援しよう。でも、3-0から、3-3まで反撃したウルグアイも凄い。この試合は見たかった。でも、まさかフランスが負けるとは思ってもいなかったんだろうな、ウルグアイも――。さような、レコバ。君のインディアンな顔が好きだぜ。

 E組は、大きな番狂わせはなし。ただ、ドイツ対カメルーンの試合は、またもや審判の無能さを披瀝してしまった。審判はスペイン人のLOPEZ NIETO Antonioさん。審判ランキングにも入っているスペインリーグでは最優秀な審判なはずなのに……。ひどかった。
 イエローカードが十数枚は、よほどの荒れ試合と思われるだろうが、そうさせたのは当の審判だと思う。いくどは選手どうしがぶつかり合ったが、そのような荒れ模様にしてしまったのが、すべて審判の判断なのだと思う。とてもつまらない試合だった。
 カメルーンが負けてしまったことは悲しかったが、しかし、それはカメル−ンの気魄が希薄だったのだと思う。ドイツのゲルマン魂はすごい。揺るがない。常に、安定した精神性を保つ。でも、前半の終わりのカメルーンのスピードに振り回されていた時のドイツDFの動揺ぶりは面白かった。まだ、10人になる前のことである。脂汗をかいていた。あそこで1点決めていれば、すべてが変わったのに。かなり大きなコトが変わったであろう。例えば、ドイツリーグは、保守的な移民政策に反して、アフリカ選手をもっと雇うようになったであろうか。アフリカ人は自分の活躍する市場を増やしたであろう。しかし、負けてしまった。純国産、ドイツ人のチームに――。この事実はとても大きい。

 セネガルが勝って嬉しいのは、彼らがほとんど、フランスリーグで戦っている選手たちだからである。フランス代表よりもずっと具体的にフランスのサッカーを支えているのが彼ら、セネガルの選手たちなのだ。いわば、フランス国民にとっても、第2のフランス代表だと思わなければならない。極右の連中はそうは思わないだろうが。

 とにかく、ロシアの暴動でも感じたとおり、サッカーは民族的な問題と直結している。だから、できるだけ、純血主義や右翼の思わくの外のチームに頑張ってほしいと思う。
 それが基本的のボクの応援スタイルである。
 南米のチームはそういう心配がない。でも、ヨーロッパのチーム、特にドイツとイタリアという、もと枢軸国のチームは、黒人も、移民もいない純国産チームだ。そういうチームの団結力が強いのは当然なのだが、そういうチームには残念だが、早めに敗退してもらいたい。世界のためにならないからである。
 純粋なスポーツなのに――。
 と、思う向きのあろうが、そうは甘くないのがサッカーである。ボクとしては、できるだけ、ハイブリッドな多国籍チームか、南米やアフリカのチームに勝ってほしい。これが応援スタイルの基本だ。

 つまり、これまで文化と文化の戦いといってきたが、重要なのは、どれだけ異種混交であるかということになる。異なった異文化が結合しているか、という話になってくるのだ。
 日本チームにアレックスがいるということはやはり素晴らしいコトだと思う。
 ああ、そういえば、在日韓国人だった彼、名前は忘れたけど、代表にいるのだろうか? 詳しい人、教えてほしい。韓国語の不得意な韓国人の彼は?

 ワールドカップでどこの国が勝つか。そういうことは、終わってみるとなかなか必然的だったように思うのである。やはり強かったのだと。そのときに、黒人もいない、移民もいない、純国産人種だけのイタリアやドイツのようなチームにはやっぱり勝ってほしくないのである。
 国としては、ドイツもイタリアもとても好きだけれど。

 そういうことが大きな問題となってくるはずなのだ。
 それがとても気になる――。

 最後に、日本にはそんな民族的な対立はないと思うと大間違いで、それは、わが日本代表を仕切るフィリップ・トゥルシエと日本のサッカー関係者やマスコミとの間で繰り広げられた対立も、同じ文化的な齟齬の問題なのであるコトを知らなければならない。
 ここに、トゥルシエに関する面白い記事がある――

http://www.number.ne.jp/2002/news_flash_2/2002.06.08.html

 雑誌「ナンバー」のページあるが、元ネタはフランスの雑誌の翻訳である。(誤植が多いのはよほど急いで訳したのであろう)。これを読むと、トゥルシエと日本という文化の間の対立や軋轢、それから、それをどうのように、トゥルシエが克服してきたのかということが分かると思う。
 日本という国のことがわかる。

6月9日(日)

 イタリア対クロアチア(1-2)
 ブラジル対中国(4-0)
 そして――
 日本対ロシア(1-0)

 その他は観戦できず。
 稲本の素晴らしいシュート、そのお膳立てをした中田浩二―柳沢敦の鹿島コンビも良かった。全員で守った。
 とにかく日本初勝利!
 とにかくこのことをお祝しよう!
 会う人みんなと話題にしよう!

 試合の後、セブンイレブンに行った。「ニッポン戦、見てました」「やりましたね、ニッポン!」「ボク、仕事中だったんですけど、裏のポータブルテレビで見てました。よくわからなったんですけど」「お疲れさまです」顔見知りのレジのお兄ちゃんとさっそく会話。

 さあ、会う人みんなと話題にしよう!

 3戦全敗のフランスから4年。ドーハの悲劇から8年、だ。
 一歩づつ、日本サッカーが進展している。偉い、トルシエ!
 まだまだ、1次リーグ突破という目標があるから期待はしたいけれど、どうだ、文句あるか! と言ってやろう。
 次へのコトを考えると、できればFWの柳沢か鈴木に決定的な奴を決めてほしかった。勢いに乗れるだろうし。まあ、トーナメントに入ると勢いだけでは勝てないけれど。
 しかし、素晴らしい選手、コーチ、監督たちではないか!

6月7日(金)

 イングランド対アルゼンチン(1-0)。
 サッカー文化から言うと、アルゼンチン的なドリブル+パスワーク(つまりカトリック的な豊かさ)の方が好きなので、イングランドが勝ったのは個人的には残念だったが、しかし、イングランドの気魄はすごかった。スウェーデン戦とは見違えるようなチームになっていた。ワールドカップにはワールドカップの歴史があり、明らかに、その歴史が彼らを突き動かしていた。一方、アルゼンチンに気魄が感じられなかったのは、どうも解せない。
 象徴的なのは、ベッカムとベロン。
 まだ完治していないのであろう、ほとんど接触プレーを避けるように前線へ出ていかず、得意のクロスも皆無だったが、しかし、そこに居続けるコトでチームにこの試合の意味を示し続け、ついにPKを決めたベッカム。4年前の失意を晴らしたベッカム。
 それに対して、まったく集中力に欠け、ミスを連発し、チームを引っ張るどころか、ナイーブになってしまっていたベロン。
 特に、ベロンに何が起こったのか、非常に気になる。とても気になる。(ここで憶測はやめよう)

 しかし、スウェーデンは強い。昨日のデンマークも強かった。
 こうしてみると、今大会は、北欧のプロテスタント的なストイック・フットボールが優勢のようだ。守ってカウンター。高さを活かしたロングボール攻撃。
 ボクとしては面白みのないところだが、国としてはデンマークもスウェーデンも機能的だしオシャレだし、食べ物も旨いしで好きなんだけど。
 でもやっぱり、アルゼンチンのオルテガのような「もらったボールはオレのもんだ」的な、我の強い、ドリブルプレーが好きだな。だから、リケルメも好き。きっとアルゼンチン国民だって、今日のなんか、あんなのサッカーじゃねえって思ってるだろうな。あんなスマートなやり方じゃ勝てるわけねえって。てめらはヨーロッパで出稼ぎしてガッポリ稼いで、お上品なサッカーやりやがって、母国がどうなっているのか知らねえンだろ! って。
 でも、南米の選手も、ヨーロッパでプレーするようになると、自己主張の強いプレーってなくなっちゃう。ベロンもきっと、そういうふうにして、骨抜きにされちまったのかもしれない(憶測はやめよう)。
 でも、ブラジルの危機というのもそういうところにあるのかもしれない。ブラジルらしいサッカー文化の危機ということか。そう考えるとロマーリオみたいな、現在100%ブラジルみたいな選手がいてくれたほうがやっぱり面白かったかもしれない。
 だからやっぱり、ボクの嗜好は、アイルランドやウルグアイのような、不器用で頑固なマイナー文化を応援してしまうのだった。
 ああ、エクアドルの試合が見たい!(アギナガの怪我が残念だが)

 試合を見終わって、外へ買い物に出かけると、マンションのエントランスで高校生くらいの男のたちが、サッカーボールを蹴り合っていた。
 おそらく隣の部屋に集まっていた男の子たちで、観戦の後、気持ちがあまって外へ飛び出したのだ。
 サッカーはそんなふうに感染してゆく。
 麻薬だ(いい意味でね)。

6月6日(木)

 またもや大変な試合。サイテーの試合だった。
 審判のジャッジ問題が噴出である。
 ウルグアイ対フランス(0-0)、これに負けたら、どちらも1次リーグ敗退であった。こんな試合で負けなくてよかった。フランスも、ウルグアイも。

 三省堂で、中沢新一氏の新刊『緑の資本論』を買う。

 いつの間にか、近所の八百屋の軒に巣を作っていたツバメがいなくなった。子ツバメの姿を一度も見なかった。いつか大きくなって顔を出すだろうと思っていたら、突然いなくなっていた。心配。

6月5日(水)

 アイルランド対ドイツ(1-1)に感動する。
 強く、感動する。
 ワールドカップの面白さをさらにも、深く、思い知ってしまった。
 世界にはホントにいろいろな国があり、民族があり、文化があるんだなあ〜。ということが、ホントによくわかる。

 今日は一日いろんなニュースがあった。
 夕べの日本戦のこともあったが、なにより朝日新聞の一面記事に、気持ちが振り回されてしまった。理解できなかった。それで、またまた、あるコトないコト、考えてしまった。
 つまり「中田英寿は、日本代表でプレーするのはこのW杯が最後だと、周囲に伝えている。(朝日の説明によれば)国の名誉という鎧を着せられた国対抗の代表戦は、チームのために働くことが優先される。プレーを楽しむことより勝負に執着するサッカーを終わりにし、自分を表現する場を探したい」という記事。
 んんん?
 朝日新聞だからと信じたボクがバカだった!
 なぜだ? どういう気持ちから出た言葉だ?
 と、かなりアレコレかんぐってしまったのである――。
 しかし、先ほど、スポーツナビというサイトの記事に、

中田:一部の新聞で「今年のW杯が最後」と出たが、この記事自体がどこから出たのか分からないし、そういう憶測やうその記事がよく出るが、今回このW杯の期間中ということで、みんなが盛り上がってる中で、ムードを壊す記事が出たことが、選手、スタッフ、ファン、そしてメディアのみんなが一生懸命になってる状態を壊すのは残念だった。

 というコメントが出ていて、ホッとした。
 朝日新聞も信用できない。

 にしても、今日もいろいろな報道があった。
 これらの報道がみんな、一つの「問題」を巡っているようにボクは思われる。

■オーストリアの保守党と極右党の連合政権が「外国人を排除するための法律」を作った。
■日本の与党の官房長官は、「非核三原則を見直して、核兵器を持ちたい」という欲望を暴露したが、それがまだ通用しないとわかると、あわてて訂正した。それが国民の意見なのだと言う。(どこの国民の? いったい国民とは誰のことなのか?)
■韓国では昨夜、「4500万人が釜山で一つになった(朝鮮日報)」と喜ぶ「国民」がいた。
■地方裁判で負けた世田谷区が、アレフ(元オウム)の締め出し条例の制定へ。「最高裁の判断に期待できない」というのだ。

 国家と個人の間に、現在大きなギャップがある。
 国家というモノがどこでも、どの国でも、大きな力を前面に押し出してきている。(オウムの裁判は逆だけど)。

 神保町で、ワールドカップ特集の『すばる』と、岩波文庫『夏目漱石文芸批評集』を買う。

6月4日(火)

 ついに日本初戦、そして韓国初戦!
 日本対ベルギー(2-2)、韓国対ポーランド(2-0)。
 開催国が、開催国のアドバンテージをもらって、それぞれの「伝統」をしっかり発揮することができた感じだった。面白かった。

 でも結果から言うと、日本の試合は審判が侵犯して、結果を決めてしまった試合。日本は勝利するチャンスがたくさんあったのに、残念。
 あの、コスタリカ出身の審判にさて、メディアはどんな判定をくだすのか?
 ボクらはこれからFIFAのページに出かけて抗議をしようと思う。奴は、日本の3回のPKチャンスを奪い、最後に勝ち越しの3点目を奪ったのだ。
 もちろん、選手たちにはもうアレコレ考させない。悔やんだって、次には繋がらないから。
 ただまわりは、正当に、抗議をするコトは必要じゃないか。

「6月4日の日本対ベルギー戦での、あなたの判定には納得できません。あなたの判定は判断が遅く、あいまいで、結果、選手が作るはずの試合を、あなたが操作してしまったのではないでしょうか?」
"We complain of your judgment on the match of 'Japan vs Belgium' on June 4. Your judgments were so slow and so obscure, we thought that you disturbed the natural movements of the game, but these could be created by the players."

 しかし、失点は失点、同じようなミスから2点取られてしまった。
 オフサイドトラップも線審の判断だから、主観的だ。世界にはいろんな審判がいるのだ。そして、審判ごとにいろんな主観を持っているのである。そういうコトは不条理であるが、しかたがない。それよりも、審判とも戦う術を学ぶことも重要だろう。
 にしても、日本の守備はあまりに研究されすぎている。もろすぎ。ゴール前のセットプレーとなると見ているこっちがもう不安になってしまう。
 最初の競り合いで勝っても、クリアボール、セカンドボールを、攻撃的につなげることができない。クリアすることと、攻撃とが意識の中で連動していない。守備の中から攻撃が埋まれてくるという発見が少ない。日本の最終ラインのボール廻しを見ているとイライラしてしまう。ディフェンダーに攻撃的なパッションが足りないのだ。もちろん、そういうところが、あまりに日本的な「伝統」なのだが……。
 ボランチの戸田も稲本も全体を差配できるタイプでないのが厳しい。戸田のディフェンス、稲本の飛び出しはバツグンなんだけど。底から、前線を押し上げるアイディアに欠ける。ワクワクしながら攻撃をしかけるという心性が、中田とアレックスにしかないのが、相変わらずかなしいところか。後は、状況に対して受け身すぎ。これもまた、日本人的な「伝統」であろうか。

 まあ、仕方がない。やはりベルギーは強かった。攻撃のパターンがたくさんあるわけではないが、守りは固い、中盤でもミスはしない、基本的なオートマティズムをもって全体が動いていたのだから。
 ガップリ四つに組んで、堂々引き分けたという印象は正しい。(そういう印象へ落ち着くように、審判が試合を操作したのだ)

 一方、韓国は韓国らしい全体攻撃への積極性があった。これも伝統である。
 それは素晴らしかった。そして、あまりにポーランドが拙かった。アウェーの雰囲気の中で動揺し、調子を出すことができなかった。
 なんと言っても、あのトウガラシ色のような真っ赤に染まったスタンドはすごい。韓国はサポーターの力もあいまって、よき伝統を発揮できたのだと思う。

 では、日本のよき伝統とはなにか?
 それはボクは、オフェンスの形のアンフォルメルさ、だと思う。つまり形のなさ。そのバリエーションはかなりすごいと思う。中田がいて、柳沢、鈴木、小野、市川、森島、アレクッスと、さらに稲本、明神が飛び込んでくる。基点はいつもサイドからで、右からも左からも、そして中央は、ポジションなんか変幻自在、時間帯で攻撃の仕方がぜんぜん違う。悪く言えば、いきあたりバッタリなところもあるが、バッタリぐらいまでくると日本人はガゼン、攻撃が楽しくなってしまうのである。そこが見どころ、今日も後半、日本の攻撃のあまりの多様さに、ベルギーのディフェンスが疲労困憊、攻め切った後半は面白かった!
 そして、そういうポイントにいつも、中田、小野、稲本、アレクッスという純日本でない多国籍的な才能がいるコトだ。まかり間違っても、そこには、純日本などというものはないのであ〜る。外国のものを受け入れて、そこから自分たちらしいものを作っていくと、これがこの国の「強さ」なんだと思うんだよね。

 とにかく、今日の試合は、先取されてから逆転したコト。そこからはじめて本気になれたコト。選手にとっては、次に繋がる勢いが出てきたと思う。
 これからも楽しみな試合だったってコトはまちがいない。

 でも、フジテレビのスタジオにいた高原は、誰が呼んだのか知らないけど、痛々しかったな〜。出演した高原自身はエライと思うけど。でも中村俊輔だったら出れないだろうな〜。

6月2日(日)

 ワールドカップ3日目!
 一日中、サッカー三昧である。
 いやあ、シアワセだなあ〜、良かったなあ〜、こんな時に芝居の稽古をしていなくて、と素直に思ってしまう程であった――。

 第1試合、アルゼンチン対ナイジェリア(1-0)。
 ホントにいい試合だった。
 決勝戦のようにレベルの高い試合。ナイジェリアは強く、速く、しかし、アルゼンチンはそれより輪をかけて強力に強く、上手く、オートマティックなのだった。あのナイジェリアをあれだけ圧倒したアルゼンチンは、やはり今大会最強でしょう。両チームとも、個人の能力が組織のコンビネーションの中でハツラツと生きていた。スゴイ。
 それと対照的だったのが第2試合、イングランド対スウェーデン(1-1)。大味なサッカー。まるで、イギリス料理のように塩気の少ない、スパイスの利いていないサッカー。計算のないロングボールの蹴り合い。スウェーデンの方が、いくぶん、攻撃に独自のリズムがあったが、イングランドの方は、まだ肉体が思考の合理主義を凌駕していない、サッカーゲームのようなサッカーだった。

 やはり、ワールドカップのような各国代表サッカーというのは、各国の文化をそれなりに反映していて、それぞれの文化同士のせめぎ合いが抜群に面白い。
 特に、「南米vsヨーロッパ」という構図で語られることが多いけど、厳密な棲み分けを言うと、いちばん大きい要素は「カトリックvsプロテスタント」という違いではないだろうか、という気がした。
 端的に言うと、ドリブルvsロングボール、という戦術の違い。基礎練習における重点の置き方の違い。個の主張の仕方の違いである。
 その先鋭的な例が、イングランドvsアルゼンチン。
 宿命の対決として語られる両者であるが、これは多くの雑誌などがその対戦歴や政治的な軋轢を説く以上に、その根っこには、民衆の文化の違い、もっとハッキリいうと宗教的な文化の違いがもっとも際立っているのである。
 原理主義的なプロテスタントのイングランドと、聖俗未分のいい加減さの極みに至っているカトリックのアルゼンチン。両者の価値観の違いが、南米vsヨーロッパという構図の中でも極めつけに対立的なのである。その中でも、スマートな組織的サッカーを会得してきたアルゼンチンの方が、今大会はやはり有力だ。

 そこに、その、キリスト教的な戦いの構図に、アフリカの地域的=土着的なパワーがどこまで組み入ることができるか。やはり見どころはそんな、従来の構図のようである。
 もちろん、日本や韓国、アメリカや、中南米でもエクアドルといった、サッカー第三世界の「中途半端な」勢力がどう切り込んでいくかもオプションとしては頼もしい。が、その先鋒であったイスラム文化のサウディアラビアが、プロテスタント・ドイツ軽く粉砕されてしまったのがホントに残念である。
 つまり、こういうことだ。
 サッカーの戦いは、いまだにキリスト教文化圏の内部闘争なのであって、その他の宗教、文化がつけ入るスキがまだまだないのである。キリスト教文化圏の外へ、サッカーを解放していくコト。その道筋を見い出すことが、はじめてのアジアでのワールドカップ開催のもっとも有意義な価値なのだが……。

 スペイン対スロベニア(3-1)も見た。両者ともほぼ互角。こんな点差で終わる試合ではなかったのに、結局、審判(モロッコ人)が決めてしまった試合であった。
 サッカーにおいては、反則を判断するのは、かなりな分量を審判の「理念」によっている。審判は必ず主観でもって判定するのだから、その主観が、時に、選手以上に試合を左右してしまう。その主観に「理念」があれば、ボクら観客は納得するのだが、「理念」なき主観は、試合をとんでもなくつまらなくしてしまうノダ。
 審判に対して採点するヨーロッパの習慣を、今後は、日本のメディアも見習ってほしいと思うな。総選挙なんかの時に、最高裁を認否するようにね。

6月1日(土)
 ついに始まったワールドカップ。
 開幕戦のフランス対セネガル(0-1)はリアルタイムでは見られなかったが、結果を知るだけで、ドキドキしてしまった! 友達と冗談で言ってはいたのだが、ホントにフランスが負けてしまったのでアール。
 日本での初戦、カメルーン対アイルランド(1-1)は、ちょうど前半カメルーンが先制したところだけ見ていた。サイドをえぐったエトゥーのねばりと、エムボマの集中力。左足でトラップして、短いステップの後、さらに左足でのシュート! 美しい! しかし、後半アイルランドに追いつかれたと聞いてガッカリ。どうやら、アフリカ特有のムラ、集中力の持続ができなかったらしい。
 それにくらべて、恐ろしいのは、ドイツだ。どんな状況であろうが常に一定の精神力を保ち続ける。その勝負への意志。ゲルマン魂。おなじ第二次世界大戦の敗戦国なので、日本にはないメンタリティーである。
 というわけで、夜は、ドイツ対 サウディアラビア(8-0)。ドイツは強く、サウディは弱かった。ホントに、そういう感じ。始まってすぐの様子で、まるで子供と大人が戦っているようだった。どんなにワンサイドゲームでも手を抜かない、いや抜けないのがワールドカップの面白さなんだなあ〜。
 どのチームも初戦からとても集中している。サッカーの場合、どんなに強くても絶対に勝てるという保証はない。こんなにレベルの高い+集中力の高いゲームを、毎日見られるというコトは、日本と韓国のサッカー文化にとってものすごい事件ではないだろうか。
 いやあ〜、つまるところ、実にシアワセなのである。
 サウディアラビアは、調布市民だからというワケでもないのだが、同じアジアのチームだし、それに今回唯一の中東国だし、かなり、力を込めて応援していたのに、可哀想だった。ぜんぜん、気持ちで押されていた。アジア杯などで見られるサウディアラビア得意のカウンター攻撃はまったくなく、まるで日本のように、つたないながらも慎重に、綺麗なサッカーをしようとしていて、ドイツの強力な体躯と組織に手も足も出なかった。サウジはけっして弱い国ではない。94年のアメリカ大会では、予選リーグを突破しているのである。それが、あまりにも自信のない顔をしていたので、悲しかった。
 現在、中東のイスラム国の人々は、多かれ少なかれ、世界情勢の中で無理解に虐げられた状態にいる。だからこそ、サッカーで見返してほしかったのである。あと2試合、とにかく巻き返してほしいと思う。
 デンマーク対ウルグアイ(2-1)。いかにも南米インディアン顔、環大平洋的な顔をしているレコバには、ぜひとももっと頑張ってほしいところである。この組はまったくわからない状態になってしまった!

2002.05
2002.04

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