熊野(ゆや)

熊野 :(マイクを持って)心のなかにあるものは隠そうとしてもムダなこと。

と、イントロが始まる。熊野、舞台前へ。

コーラス:それがこの世のしきたりよ、悩んでみても始まらねえ。

熊野(歌): はなをこえて/しろいくもが/くもをこえて/ふかいそらが/はなをこえ
/くもをこえ/そらをこえ/わたしはいつまでものぼってゆける

歌、終わる。一同、拍手。続いて桜の花ビラが散るような、散漫な音楽。
熊野、マイクを朝顔に預け、みんなの視線を先導しつつ、遠くを眺め、

熊野:今はもう、お釈迦さまのいないこの世界、柱橋寺の鷲のお山には雲がかかっておりますが、見渡せば、西にはこれは、雲かと見まごう初桜の、祇園林や下河原。はるかに南を眺めれば、なつかしいあたたかい、霞の向こう、あれはそう、熊野権現をお移しした今熊野、さらに遠くに稲荷山……。けれどやはり、花の春はこの清水でございます。祈りも千々に乱れ咲く、春の景色でございます。