熊野(ゆや)
みなさん、こんばんは……。ここは京の都。わたしは今をときめく平清盛の子、宗盛だ……。はるか東の田舎は、遠江の国の、池田の宿では、遊女のなかの稼ぎ頭を、熊野と申すが、これが実に美しい女ゆえ、都へ連れてはきたものの、この春の、この花見の季節になって、田舎の母親が危篤だなどと、まったく、なにが気に入らんのか、ヘソを曲げておるのだ……。こっちがせっかく、花見の座興に連れてゆきたいと思っとる矢先に……。