いちよ:旅立っているのよ。ほら、ボートが、誰も乗っていないのに、ボートがカタリと揺れるでしょ。

アキヨシ:こう?

いちよ:ひめやかに。

アキヨシ:そよ風のよう?

いちよ:夕泣き丸や、この町の姉さんたちから遠く離れて……。

アキヨシ:そこはどこです?

いちよ:迫りくる波をかき分けて、これから時のオパール色の、坂の上におおいかぶさる暗い雲を押し開き、ハチミツ色の海にせり出すつかのま。