男:知ってますか、いちよさん(とボートの向いに座って)、キャバレー街のあのビニ本屋……。

いちよ:あんなとこ行かなくても……。

男:でも、不思議な音がするんです……。何千冊も広げられたあのビニール本の棚の、もっと奥の彼方から、ドドーン! ドヨドヨ! ザッバー!という海の音……。

いちよ:本当?

男:本当です。だから、あの棚におかれたビニ本の女の子たちは、やっぱりその出航する前の港を思って、約束した人をああして思い出させようとしてんじゃないでしょうか?