第6夜「春ですね、義兄さん」
作:太田省吾「裸足のフーガ」より
 女:石神夏希  男:広田豹

 女、男の脚をまたいで腰の上に座る。

女:花粉がね、あ、蝶々ですもの花粉とはいわないね、なんていうのかしら、羽から落ちていくの、粉が、紫色の。……それが剥がれるようなの、ウロコみたいにね、ゾリゾリと剥がれていってね、落ちていくんです。姉さん、いや。……痛いの、それは痛いんですよ、義兄さん。剥がれたあとが赤肌なの。

男:あいつがやるのか、痛い目にあわせるのか。

女:静かに、義兄さん、おねがいします。おねがい……その声が痛いんです。

男:あいつがか、え、そうなんだな。

女:だって、仕方ないんだもの。そうでしょ、ね、そうなんですもの、蝶々になったりして。痛いんです、義兄さん、さすってください、そっとよ。