妻:いつも三十五歳頃の主人の姿しか浮かんで来ない私には、あれからの歳月が短いもののように思えたり、墓所にたてられた供養の卒塔婆が幾本も建てられているのをみていますと、もうそんなに歳月が過ぎたのかと驚いたりいたします。
 あまり広くない墓地ですけれど、梅、木犀、山茶花、紅葉、柊、丁字、あじさい、檜など、皆それぞれに成長して茂っています。木の陰はみな低くて狭く、その中に身を置いていると、土の中から古い憶い出が、七月の熱気と共に立ちのぼってくるような気がいたします。