良秀:私は、屏風のただ中に、檳榔毛の牛車が一輛、空から落ちて来るところを描こうと思うておりまする。その車の中には、あでやかな上臈が一人、猛火に黒髪を乱しながら、もだえ苦しんでいるのでございまする。煙にむせび、眉をひそめ、手はすだれを引きちぎって、降りかかる火の粉の雨を防ごうとしているやもしれませぬ。そうしてそのまわりには、怪鳥の群れが、十羽、二十羽、嘴を鳴らして紛々と飛びめぐっているのでございまする。――ああ、それが、その上臈が、どうしても描けませぬ。……描けかせぬ。