作家:本所両国。美しい家など一つもなかった。 家々も樹々も往来も、妙にみすぼらしい町だった。 砂埃と泥濘とみすぼらしい人々がいるばかりのその町で、僕は育った。 その町には川があった。 青い油のような水が流れ、吐息のような、覚束ない汽笛の音が、いつも、いつも聞こえていた。