K:……トイレに立つのも面倒で、わたしはじっと、まるで冬眠中の熊みたいに、ベッドの中で丸くなってったんだ、幾日も。そう、起きてるんだか眠ってるんだが分からないような、そんな文字通りの夢うつつのなかで、あのマルグリットの、ラジオから流れる、「乙女の泉」を聞いたんだ。他の歌手のカバーでは何度も聞いたことはあったが、マルグリットの歌は今まで聞いてたものとはまるで違ってた。総毛立つって言うのか、思わず身震いがしたよ。活躍してた当時は、天使の歌声なんて言われていたらしいが、この軽薄さはただごとじゃない、これは悪魔の歌声だと、わたしは思った。なんだろう? 自分の軽薄さを許されたような気がしたのかな。あんなノー天気な歌なのに、身震いしながら泣いてしまったよ。おまけに、これも分からないんだが、妙に懐かしい気持ちになって……。本当は映画なんてどうでもよかったんだ。ただ無性に、昔、あんな歌を歌ってたマルグリット・ユニックがいまどうしているのか、それを自分の目で確かめたくて、わざわざこんなチュニジアまで……

ナディーヌ:それで、どうだったの、実際に会って……?