役者のための《声》の実践講座
(ヴォイス・トレーニング)

目 次
下線のある目次をクリックするとジャンプします。

正しい姿勢

●なぜ正しい姿勢が必要か?
●正しい姿勢とはなにか?
■正しい姿勢のポイント
【ちょっと難しいところの練習】

呼吸のコト

●なぜ呼吸の練習をするのか?
■腹式呼吸と胸式呼吸について
●なぜ腹式呼吸がいいの?
【腹式呼吸ための練習】
■息を止めるというコト

発声のコト

●呼吸をしてから発声へ
■発声のメカニズム■
■アタックの硬い声と柔らかい声■
【柔らかい声を出す練習】
■高い声と低い声■

共鳴というコト

●なぜ共鳴が大切なのか
■共鳴のメカニズム■
【口腔と鼻腔をバランスよく響かせる練習】

聞くコト

●耳を鍛える!

正しい姿勢

なぜ正しい姿勢が必要か?
 声を出すだけでじつは全身の筋肉を使っているのです。しかし日常のストレスなどから普段の肩や背中や胸には余分な力が入っていて、それが抜けなくなっています。だから訓練しないと声はどうしてもゆがんでしまうです。
 その余分な力や緊張を抜いて、自分のもっともノーマルな声を出すようにするのが発声練習です。
 そのためにまず正しい姿勢が大切なのです。

●正しい姿勢とはなにか?
 つまり肩や背中や胸に余分な力が入ってしない姿勢です。肩や背中や胸だけでなく、上半身全体が骨盤の上にスッポリとのっかっていて、リラックスしている姿勢。立ち方。歩き方のことです。
 背骨の曲がり具合がなめらかで、無理がなく、リラックスしていることが大切!

しかし日常というのは恐ろしいもので、この余分な力というのものは、なかなか抜けません。肩凝りがなかなか直らないのと同じです。
発声の訓練はすぐに成果が出るというコトはありません。地道に気長にいきましょう!

■正しい姿勢のポイント
下半身の姿勢については、(A)(B)2種類のモデルを並記する。
(A)は安定していて、(B)は下半身の強化になる。疲れている時は(A)がGOOD!

カカト (A)カカトを腰の幅くらいに広げる。
(B)カカトをくっつけて、つま先を女性は45度、男性は60度くらいに開く。


体重 体重は気持ち前に。親指のつけ根のあたりに。

ヒザ (A)膝をゆるめる。楽にゆるめて安定するところ。
(B)膝をうしろに曲げる。矢印の方へ膝を伸ばすつもり。足全体の筋肉がかるく緊張するように。

骨盤(腰) おしりの穴をキュッと締めて練習その1、骨盤を垂直に立てる。普段の感覚よりはやや前に回す練習その2


注意:アヒルのようにヒップアップしないコト。また逆に前に出し過ぎても×。


腹 下腹を引っ込める。


上半身 胸を開く。あるいは高めに起こす。
>>>練習その3
けっして胸を張るのではない。


頭・首 アゴを引きぎみに、頭はまっすぐ立てる。

ちょっと難しいところの練習

練習その1――おしりの穴をキュッとしめる感覚をつかむには?

カカトもつま先もピタッとくっつけて立つ。
体重をカカトの方へ。
この状態からつま先だけ左右に開いていく。
ほら、おしりの穴が締まっている。

練習その2――腰を前に回転させるには?

壁を背にして立つ。
カカトも頭も壁につける。
このとき背中をすき間なくくっつけるようにする。これには、腰を回転させるしかない。(かるく膝を曲げるほうがやりやすい)

練習その3――胸を高めに起こすには?
(肩と胸とアゴと位置関係がうまくつかめない人のために)

ボクシングの格好をする。
構えた両腕をだらりとたらす。
その状態のまま、クッと胸だけ起こす。

正しい姿勢は普段からの習慣にすべし! 駅のホームで電車を待つときなんかにも意識しよう。姿勢が悪いとテキメン、のどを傷めます。正しい姿勢は役者の動きの基点ですから。

ページのいちばん上に戻る

呼吸のコト

なぜ呼吸の練習をするのか?
 人は声を出すためには息を吐かなければなりません。息を吐くためには、その前に息を吸わなければなりません。
 声の大きさ、柔らかさは息の吐き方に関係しています。例えば、声の大きさは吐く息の強さによります。強く息を吐くためには、正しく息を吸う必要があるのです。
 だから、魅力的な声づくりにはまず、呼吸をコントロールする技術が大切なのです。

また、毎日の発声練習のときに、いきなり声を出すよりも、呼吸をくり返してノドを暖めてからのほうが声帯にかかる負担が減るノダ!

■腹式呼吸と胸式呼吸について

胸式呼吸――肺をつつむ肋骨を動かすことで空気を出し入れする。
だから肩や胸が上下する。


腹式呼吸――肺の下につながっていて、内臓とのあいだを仕切っている横隔膜が上下するコトで空気を出し入れする。横隔膜呼吸ともいう。
だから内臓が押し出されて、お腹が膨らむ。

 逆腹式呼吸というのもあって、これは主に背筋でもって横隔膜を上下させる。だからお腹は逆に凹む。これも腹式の一種。

呼吸筋――横隔膜を動かすのは、腹筋だけでない。脇腹の筋肉=腹斜筋や、背筋も横隔膜とつながっている。この3筋肉を「呼吸筋」と呼ぼう。「呼吸筋」を使って、前後左右からバランスよく横隔膜を押し下げるコトが「正しき腹式呼吸」ナノダ。     

なぜ腹式呼吸がいいの?
 胸式は生きのびるために「吸うコト」を目的とした呼吸方法です。吸う力は強いのですが、「吐くコト」はコント−ルできません。
 それに対して、腹式呼吸は表現するために「吐くコト」を目的とした呼吸方法です。腹式呼吸では「吸うコト」は「吐いたコト」の反射的な反動にすぎません。だから意識的に「吐くコト=声」をコントロールできるのです。

 生まれたとき、人は腹式で呼吸しています。腹式のほうがもともとはナチュラルな呼吸方法だったのです。しかし、生活の中のストレスから体じゅうの筋肉がこわばって使えなくなったり、あるいは女の子なら成長過程で母胎になる準備を始めるために、しだいに腹式で呼吸することができなくなってしまいます。
 小さな赤ちゃんの体からあんなに大きな声が出るのは、腹式呼吸だからです。腹式で呼吸することで全身の筋肉と合わせて、声帯や共鳴器官の能力を最大限生かすことにもなるのです。

【腹式呼吸ための練習】

練習その1――カンタンな腹式呼吸1

なにかに驚いて「あっ」と声を出すかわりに、「ぐっ」と息を飲む感覚、このとき腹式呼吸の場合が多い。思い出してみよう。

練習その2――カンタンな腹式呼吸2

あおむけに寝転んで全身の力を抜く。へそが見えるように枕などで頭をあげる。

呼吸に合わせて、お腹が上下しているのを観察する。(このとき腹式でないとお腹は上下しない)

呼吸と無関係に(意識的に)お腹を膨らませり、引っ込めたりする。

そこでお腹をできるだけぺしゃんこにしたまま、さらに息を吐く。すぐに苦しくなるがガマンしてこの状態をキープする。

の状態から、吸う前に、お腹だけ少し膨らませる。そこからさらに膨らませるようにして、一気に(鼻から)息を吸い込む。(ゆっくり吐いていって、の状態に戻る。これをくり返す)

ができるようになったら、お腹がぺしゃんこのところから一気に息を吸って、お腹を膨らませるようにする。(これをくり返す)

これもできるようになったら、立った姿勢(正しい姿勢)でやってみる。

すぐには出来ない!焦らずに、気長に毎日やるべし。普段からまったく腹式呼吸をしていない人にとって、自然な腹式呼吸ができるようになるためには呼吸筋の発育を考えても2、3か月はかかります。

練習その3――吐く息をコントロールする筋肉を鍛える

正しい姿勢で立つ。

息をゆっくりと吐いていき、吐きながらお腹を引き絞っていく。

吐き切ったところで、一気に(鼻から)息を吸い込む。
このとき、呼吸筋(腹筋・腹斜筋・背筋)をすべて使うように、へその下あたりを狙って吸い込む。うまく呼吸筋が使えていれば緊張するはず。

吸ったまま10秒息を止める。緊張した呼吸筋もゆるまないようにKeep!
(ノドを締めないように)

ゆっくりと長く息を吐いていくが、呼吸筋はまだゆるめずにKeep!

吐き始めてから5秒くらいで、今度は逆に腹筋を引き絞っていく。
に戻る)

を10回ほどくり返す。

呼吸筋をKeepしている時は、横隔膜を下げている状態になる。

で呼吸を止めている時に、ノドを締めない。ノドで出ていこうとする息に栓をするのではなく、呼吸筋の力で横隔膜を下げて息が出ていかないようにするコト。

■息を止めるというコト

人は声を出す瞬間、一瞬息を止める。息の止め方には2通りある。

ノドを締める――出ていこうとする空気をノドでシャットアウトする。
普段、意識的に「息を止める」というときはコレ。トイレでイキんだり、重いものを持ち上げようという時などコレである。


横隔膜を下げる――ノドは開いたまま、もう少し空気を吸いたい状態で息を止める。カメラのシャッターを押そうとする瞬間など、ふと気持ちが集中するようなときがコレ。

 柔らかい声を出すときや、なめらかに発語したいときには、の息止めができなければならない。

ページのいちばん上に戻る

発声のコト

呼吸をしてから発声へ
 まず呼吸。順番が大切です。寒い日にエンジンを暖めてから発進するのと一緒ですね。

■発声のメカニズム

声帯――声の発生装置。
声は肺から出ていく息が、ノドにある声帯を振動させるコトで発生する。

声を出さずに呼吸するときは声帯は開いたまま。声を出そうとすると、声帯は閉じて振動します。

声帯を開閉させるには、耳の後ろの筋を通じて、腹筋や背筋などの「呼吸筋」を使うのが本来のメカニズム。しかし、胸式呼吸がふつうになると、舌のつけ根の筋肉で無理矢理に声帯を開閉させるようになります。

《実験》鏡でのぞきながら、口を開けて舌を出しながら声を出してみよう。どんどん奥へ、舌が引っ込んでしまう。
舌で声帯を引っ張っているからだ。

というわけで、ポイント:舌の力を抜くこと。これには、正しい腹式呼吸で、背筋を使って呼吸をコントロールしなければダメ。

共鳴器官――声の増幅装置
声帯で発生した声は、共鳴器官で増幅されて息とともに外に出る。
>>>共鳴というコト

■アタックの硬い声と柔らかい声

息の止め方の違いから、アタックの違う声が生まれる。

アタックの硬い声――ノドを締めた状態から出す。
閉じた声帯にいきなり息が当たるので、大きな振動からアタックの強い声になる。

アタックのない柔らかい声――ノドを開いた状態から出す。
声帯はゆっくりと接触し、小さな振動がじょじょに伝わって柔らかい声になる。

もちろん両方使いこなすコトが理想だが、の柔らかい声の方がよっぽど難しく、それに舞台では往々にして説得力のある「力」を持つことが多い。

相手の役者とからめない、一人で芝居をしがちな人はの声出しばかりという場合が多い。

アタックの硬い声を出すときの注意――演技の上で、ときに硬い声を出すことは必要だが、硬い声出しは瞬間的に声帯を激しく振動させるため、声が枯れやすく病気になりやすい(咽喉ポリープなど)。
特にノドをつぶしたような声や、ノドを詰めた発声は、図のように喉頭蓋(軟喉蓋ともいう)がノドをふさいでいるので、圧迫されたまま声帯が振動している。この状態が習慣になっていると、声帯が硬くなっていて炎症を起こしやすい。

【柔らかい声を出す練習】

練習その1――あくびをしながら声を出す。

正しい姿勢をとる。
大きく口をあけてあくびをしてみる。「あー、あー」
腹式呼吸を意識しながら、少しづつ口を小さくし、「あー、あー」をハッキリと出していく。

舌を出しぎみにしてやると効果的!

練習その2――「はあ(H・A)」と言う。

正しい姿勢をとる。
「H」は無声音。「A」は有声音。「H」を3秒くらい伸ばしてから、少しづつ「A」へ移行していく。

できるだけ滑らかに移行していくように。

■高い声と低い声

声帯の振動の仕方が違う。

低い声――振動が声帯全体に大きく広がっている。

高い声――声帯は薄く引き延ばされ、振動は声帯の接触している先っちょに限られる。

ファルセット(裏声)――声帯はさらに薄く引き延ばされ、接触部分はほんのわずか。振動もさらに細かい。

普通の高い声とファルセットの違いは難しい。本来なら、滑らかに移行できるものなのである。子どもの声の表情の豊かさは、声帯の柔らかさにある。

普通は低い声は胸で響き、高い声は頭で響くので、を胸声発声といい、を頭声発声ともいうが、ほとんどの音域は胸声でも頭声でも出せる。

発声練習で声の高さを変化させる場合は、高いところから低いところへと移るコトから始めるコト。その方が声帯にとってやさしいノダ。

ページのいちばん上に戻る

共鳴というコト

なぜ共鳴が大切なのか?
 日常生活では、大きな声を出すときには、全身に力を入れて強い声を張り出しますが、舞台では微妙なニュアンスをもった声や、柔らかい声を遠くまで届かせなくてはなりません。そのときに共鳴が大切になります。

■共鳴のメカニズム

声帯でつくられた声は共鳴器官で増幅される。
共鳴器官にはおもに3つある。
口腔(口のなか)鼻腔(鼻のなか)咽頭腔(ノドと声帯のあるあたり)。
息の流れるところが共鳴しているところだから、共鳴器官の使い方には次の4通りが考えられる。

咽頭腔のみ――ノドだけでの響き。
咽頭腔と口腔――口での響き
咽頭腔と鼻腔――鼻での響き。
咽頭腔と口腔と鼻腔――口と鼻の両方での響き。

普段の会話(日本語の場合)はです。はちょっと風邪ひきサンみたいですね。口腔と鼻腔をバランスよく使えるように訓練しましょう。

【口腔と鼻腔をバランスよく響かせる練習】

練習その1――軟喉蓋を意識する。

正しい姿勢をとる。
口を開けたまま口だけで呼吸してみる。
口を閉じて鼻だけで呼吸してみる。
では、口を開けたまま、口だけの呼吸から、鼻だけの呼吸に切り替えてみよう。

このとき、ノドの奥のほうで動く筋肉をとらえる。それが軟喉蓋。これを意識的に上に上げることで響きが鼻腔を通ってなめらかになる。

練習その2――軟喉蓋を上げる。

正しい姿勢をとる。
口の両端を上げて(笑ったような形で)、口と鼻の両方で呼吸してみる。
呼吸からゆっくりと「MA」と言ってみる。

練習1でつかんだ軟喉蓋の感覚を「上げる」ように意識するコト。

最初は鼻だけを響かせておいて、口の方に響きをかけていくと分かりやすい。鼻と口がいっしょに響いている感じ=顔全体が響いている感じをつかむ。

鼻声にならないように腹式呼吸を意識する。

ページのいちばん上に戻る

聞くコト

耳を鍛える!
 声は身体の外に響いているのと、内に響いているのではまったく違って聞こえます。発声練習のときは、ほかの人に聴いてもらったり、録音したりして自分の声を客観的に確認することがとても大切です。また、ほかの人が声を出しているのを聴いて、身体のどこを使って、どこから、どんなふうに響いて来ているのか聞き分けてみましょう。
 劇場や稽古場で、自分のいる場所から、声がどのように響くのかをいつも確かめるよう心掛けましょう。

図のように両手で耳の前をふさいで声を出してみよう。声の響きが変わるのがわかるよ。

ページのいちばん上に戻る