作:シャルル・クロ
Charles Cros

男:僕はボージラール街に住んでましてね。もう帰らなきゃいけないんです。ですからね、発見したことをお話するといっても、ほんのちょっとしか時間がないんです。
 そりゃ、きれいな街じゃないですよ。でも静かなところでね、頭脳労働者にはもってこいなんです。女房なんかは、まあ、ボージラールは好きじゃないって毎日のように外出しちゃ、パリ中を歩き回って、女友達のアパートだの、買いもしない店だのをウロウロしてるんですが、おかげさまでね、僕は一人きりでこの頭を働かせることができるってわけです。
 実はね、女房には砲兵将校の従兄がいるんですが、いや、ソレこそが事の発端だったんですけどね、この男、毎晩うちでメシを食っていくんです。まあ、僕も、自分の発見についちゃいろいろ話してやるんですが、向こうもそれなりに聞いてますよ。そいつがね、三本の赤いストライプが入ったズボンをはいてるんです。両側の二本が太くって、まん中のが細いのを。
 僕が最初に本気で疑い始めたのは、環状線の駅のホームで、その従兄と一緒に帰ってくる女房のことを待ってた時でした。延々伸びてゆく四本のレールを見たりしながら、頭は妙に活発に動いている。なんだろう。退屈は退屈だったんですが、きっと人が何かに気づく時ってのは退屈な時なんですよ。僕は空を見上げ、ぼんやりと電線の数を数えたりしました。全部で二十四本でした。
 汽車から二人が、というのは女房とその従兄がですが、降りてきたのはずいぶん遅い時間で、まあ、その時点で気づいてもよかったんです。ですがまだ、証拠は不十分。まだまだ観察する余地はありました。
 そう観察ですよ! なにを置いてもまず観察。それから発見は確証に変わるんですから。
 そうなんです! 僕の頭にハッキリとソレが浮かんだのは、植物園に行った時でした。女房に頼まれて、養老院にいる、彼女の乳母のところに半ダースほど、あったかい毛糸の靴下を届けてやった帰りです。
 それがもう、おそろしく暑い日でね、養老院から出るとすぐ、目の前の植物園が目に入ったんです。ああ緑だ! 木陰があるぞ! ってね。僕はまずシマウマのところへ行きました。ところが奴はどうしたものか、自分の小さな敷地の中をビュンビュン飛ばしてるんです……猛烈に走ってるんです! これは、と僕は思いました。このシマウマという俊足をもって知られる動物には縞模様がついてる。ストライプです。ということはだ、ストライプのついてるものはすべて速いってことじゃないか? しからば逆もまた真なりで、速いものにはすべて、ストライプがついているってことじないか? いかがです? これを証明してみせましょう。
 そのあと僕は、時間も遅かったので軌道馬車に乗りました。これがまた速いんです。レールの上をビュンビュンビュンビュン。そうです。レールというのは、ね、ストライプでしょう?
 そこでね、僕は馬車の中で一つ一つ問題を整理してみました。女房の従兄。この男のズボンにもストライプがある。こいつはなんにつけやることが素速い。うーん。こいつは砲兵中隊を指揮しているが、大砲にもストライプがある。ほらあれです、砲身の内側に刻まれてる螺旋状の溝。ね。大砲の弾より速いものなんかありますか?
 そしたら雨が降り出して、嵐になりました。ゴロゴロゴロ、ピカッ! イナズマというのはまたすごい速さです! 光の筋が空をまっぷたつ! 空を引き裂くストライプ! 雨もそうです。水滴が勢いよく、次から次へと落ちてくる。これもストライプ
 どうですか。ね。縞々のストライプ。証拠ならいくらだって挙げられるんです。でもみなさんは学者じゃないから、こんな話は退屈でしょう。
 しかしです! いいですか! 最後にもう一つだけ。例の女房の従兄なんですが、これが、ピアノもやるんですね。ピロピロピロピロ、ジャジャーン! ってな感じの激しい奴をよくやるんです。まさにあっという間の音の洪水。さて! 奴はそんな激しい音をどこから見つけてくると思います? そうです。楽譜の上です。五本の横縞の入った五線紙の上ですよ。
 ああでも、みなさんは学者じゃないから、こう思ってるんですね? 「そんなのはみんな、理論上のことで、何の役にも立たんじゃないか」って。
 ところがところが、応用の範囲は無限大なんです! たとえば郵便局員に、四季を問わず上から下までストライプの服を着せてごらんなさい、そうなったら連中、手紙を抱えてゴロゴロ、ジャジャジャーン!ってなもんですよ。
 でも反対に、現金を扱うような連中にはこの手の服は禁物です。だってほら、よこしまな考えを起こして、トンヅラされたらたまったもんじゃないですからね。ね。だから応用範囲は無限大なんです! 実に素晴らしいじゃありませんか!
 僕は、この大発見にワクワクして、飛んで家に帰りましたよ。と思ったら案の定、汗びっしょりで、おまけに雨が帽子の下までしみ通ってて、顔の上に黒い縞々ができてました。ハハハ。
 女房の奴めずらしく家にいましてね。従兄と一緒でした。それがなんだか二人ともハアハアして、どうもカーッと上気してるんです。暑さのせいでしょうか? 僕は家に入るなり叫びました。「こんちくしょう! とうとう見つけたぞ! そうだったのか!」
 すると女房の奴は気を失ってしまいました。従兄なんかサベールを手に逃げ出そうとするんです。
 そこで女房の顔に水差しの水をぶっかけて、やっと気を取り直したところへ、とくと僕の発見を話してやったんです。縞模様が入っているものはすべて、迅速に動くって法則をね。
 そしたら、あいつ、いきなり笑い出したんです! 笑い出したんですよ! また気絶されるんじゃないかって思ったくらいです。しかも従兄の方まで笑ってる。あいつら揃いも揃って、科学ってもんをてんでわかってないんですよ! やれやれ!
 でもまあ、そんなことは大したことじゃありません。彼らだってちゃんと科学の恩恵を受けて生きてるんですからね。僕は女房にストライプの入った服を買ってやりました。これであいつも、もうちょっと早くは、夕食に帰ってくるんじゃないですか。へへへ。