作:テネシー・ウィリアムズ
Tennessee Williams

登場人物

ゴールディ
バーサ
リーナ
少女

場所は、東セントルイスのイースト河沿いにある「谷間」という名の娼婦街の「寝床」。
中央に大きなベッド。乱雑な枕や毛布の中、無造作に、娼婦のバーサが横たわっている。下手の壁のドレッサーには、派手な化粧品と、キユーピー人形が二つ。ベッド脇には、ジンの空瓶が乗った低いテーブル。床には、胸の悪くなるような俗悪な雑誌が散らばっている。
上手のドアから、ゴールディが登場。着古した、白と黒のサテン地のツーピースドレスが、肉のない、やせた体にびったりと張りついて。
ドア口に立って、タバコをふかし、打ちひしがれたようなバーサの寝姿を、いらだたし気に見ていて、

ゴールディ:ねえバーサ、どうするつもり?

しばらく返事が来ない。

バーサ:(うめくように)わかんない。

ゴールディ:決心つけてくれなきゃ。

バーサ:決心なんかつかない。

ゴールディ:なんでよ?

バーサ:疲れてるの。

ゴールディ:(溜め息)それじゃ答えになんないわ。

バーサ:じゃあどう言えばいいの。(波打つように寝返って)寝ながら考えたいの、あたしは。

ゴールディ:考えてんだか、何してんだか知らないけど……。もう二週間もそうやって……

バーサ:(聞き取れない声でムニュムニュ答える)

ゴールディ:決心つけてくれなきゃ! この部屋は、ほかの子たちが入るんだから。

バーサ:(しゃがれ声で笑って)入れりゃいいじゃない!

ゴールディ:どうやって寝るのさ、あんたと一緒に。

バーサ:なにさ!(ベッドを叩く)

ゴールディ:しっかりしてよ、ねえバーサ。

バーサ:(寝返ってうめく)あたしどうしちゃったの。

ゴールディ:病気なのよ。

バーサ:頭がズキズキするの。誰かゆうべ、睡眠薬、飲ませたでしょ?

ゴールディ:誰も飲ませやしないよ、そんなもん。あんたはね、なんだかうわ言を言いながら、まるまる二週間、そこで寝たきりだったんだから……だからねえ、バーサ、いちばんいいのはさ、そろそろクニへでも帰ってさ……

バーサ:帰るとこなんかないわ! ここにいる! 復活するまで!

ゴールディ:そんな状態で、バーサ! ここにはあんたの居場所なんかないんだよ。この部屋だって、使ってもらわなきゃ……

バーサ:ほっといて……、すこし休んだら、また働く。

ゴールディ:バーサ! お願いだから、決心してよ!

この言葉がしばらく部屋の空気を圧する。

バーサ:(ゆっくりと顔を向け、うつろに)決心ってなに。

ゴールディ:ここを出て、どこへ行くかってことさ。

バーサ:(見つめて)……行くとこなんかないわ。お願い、ほっといて。すこし休みたいの。

ゴールディ:ほっといたら、あんたはなんにもしないで、そうやって、この世の終わりまで寝たっきりじゃないの! 

バーサ:(聞き取れない声でムニュムニュ答える)

ゴールディ:バーサ! あんたがはっきりしてくれないと、あたしは病院から車を呼んで、あんたを連れてってもらうしかないのよ。いい子だから、今ここで決心してさ……

バーサ:(身をこわばらせて)決心ってなに。あたし疲れてるの。ボロボロなのよ。

ゴールディ:じゃいいわ!(ハンドバッグを開けて)じゃあこの五セント玉で、今から電話をかけてくるから。ここに言うことを聞かない、病気の女の子がいますって。

バーサ:(野太く)行けば。

ゴールディ:(気を変えて)……ねえバーサ。もう一度手紙を書いてみたら? ほら、あの男、なんてったっけ、メンフィスで金物屋だかなんだかやってるっていう……?

バーサ:(反射的に)チャーリー? やめて! あんたなんかに、あの人の話をされたくない!

ゴールディ:まあ! よくもそんな口がきけたものね……こっちは好意でおいてやってるんでしょ。そうでしょ? この二週間、あんたは一円でも入れてくれたの?

バーサ:チャーリーは……チャーリーは、あたしの大事な人なの……(あとは泣き声になって聞こえない)

ゴールディ:だからなによ? それこそ、あんた、じゃあ手紙を書きなさいよ。もうどうにもダメだから、ここからあたしを連れ出してくださいって。

バーサ:(ムカっとして)嫌よ! あの人に頼るのなんて。だって、あたしのことなんかみんな忘れてるわ。名前も、顔も……(と、ゆっくりと片手で体をさすって)寝てる間に、誰かに体を切り刻まれたみたい……

ゴールディ:しっかりしてよ:、バーサ。もしその人にお金があるんなら、あんたの病気が直るようにって、いくらかでも、送ってくれるかもしれないじゃない。

バーサ:もちろんお金はあるわ。金物屋をやってるんだから。それくらい、あたしにだってわかる。あそこで働いてたのよ、あたし……あの人、よく言ってくれた。困ったらいつでも俺に言ってくれって……あの裏部屋で、二人っきりで……

ゴールディ:それだって忘れちゃいないわ、きっと。

バーサ:あの人、知ってる、なにもかも。あたしがこんなふうに、落ちぶれたことも……あの人と別れて、このセントルイスへ来てから。(平手でベッドを叩く)

ゴールディ:そんなことないわ、バーサ。知らないと思うわ。

バーサ:(弱々しく笑って)あんたでしょ。あんたが手紙で知らせてるんでしょ。あたしのことを。なにからなにまで!

ゴールディ:バーサ!

バーサ:(聞き取れない声で)その下品な口でネチネチネチネチ!

ゴールディ:ねえバーサ、あたしたち友達じゃない。

バーサ:それにもう結婚してる。

ゴールディ:ほんのちょっと、ハガキでもいいじゃない。ね。ちょっと困ったことになりましたって。向こうだって自分で言ったことを思い出すわよ、きっと。なんでも言ってくれって言ったんでしょ。

バーサ:……ねえ、ほっといて……体じゅう壊れそうなの。

ゴールディ:(あとずさって、客観的にバーサを眺め)お医者さんを呼ぼうか?

バーサ:いい。

間。

ゴールディ:神父さんは?

バーサ:(シーツに爪を立てながら)いいって言ってるでしょ!

ゴールディ:あんたの宗派、なんだっけ?

バーサ:いいわよ。

ゴールディ:カトリックだっけ? そう言ってなかった?

バーサ:言ったかもしれないけど、それがなに。

ゴールディ:ほら覚えてない? ローズ・クレーマーの時みたいにさ、修道院かどこかに頼めば、あんた、よくなるまで部屋をあてがってもらえるかもしれないわよ……どうバーサ?

バーサ:嫌よ、修道院なんて! お願いだからほっといて。ゆっくり休ませて。

ゴールディ:バーサ、あんたの病気はね……もうどうしようもないのよ、バーサ!

しばらく間。

バーサ:……どうしようもないって?

ゴールディ:そういうことよ。べつに脅かしたかないけど……

バーサ:(嗄れた声で)死ぬってこと?

ゴールディ:(考えて)……そうは言ってないわ。

間。

バーサ:でもそういうことなのね。

ゴールディ:万が一よ。もしものことだってあるわけだし。ねえ。ほうっておくわけにもいかないのよ……

バーサ:(起き上がろうとして)死ぬんなら、あたし、書く、チャーリーに手紙を。あたし、あの人に聞いてほしい……

ゴールディ:懺悔だったら、あんた、神父さんの方が……

バーサ:嫌よ! 神父なんて! 嫌! チャーリーよ!

ゴールディ:だけどあの、キャラハン神父はね……

バーサ:嫌! チャーリーがいい!

ゴールディ:チャーリーはメンフィスでしょ。メンフィスで金物屋をやってるんでしょ。

バーサ:そうよ、セントラルアベニューの563……

ゴールディ:彼には、あたしからから書いてあげるから。ね。あんたの体調のことをさ。どう?

バーサ:(考えて)……いい。「元気?」って、それだけ書いてくれれば。(と壁に向かって顔を背ける)

ゴールディ:ほかにもなんか言わなきゃ、バーサ。

バーサ:いい。それだけでいい。「元気? バーサより」。

ゴールディ:それじゃなにがなんだかわからないじゃないの。

バーサ:わかるわよ。「元気? バーサより、チャーリーへ、愛を込めて」って。わかんない?

ゴールディ:わかんないわよ!

バーサ:わかるわよ。

ゴールディ:(ドアに向かう)病院に電話して車をよこしてもらったほうがいいようね。

バーサ:やめてよ! 死んだほうがマシよ。

ゴールディ:そんな状態でここにはいられても困るのよ、バーサ! いい、あんたみたいになっちまった子にいられたら……。そうよ、こっちだってしかるべき処置を取らなけりゃ、どうなっちまうかわかったもんじゃないんだ……

外から「セントルイス・ブルース」が流れてくる。リフレインに合わせて混じるハスキーな男の声。はじける笑い声。ドアの閉まる音。

バーサ:……そう。おっしゃる通り。ゲームのルールくらい、あたしだって知ってる。(輝くような、遠い目でゴールディを見つめて)一度堕ちたらそれっきり、二度と這い上がれない!(頭を振ってまた横になる。ひとしきり、こぶしでベッドの脇を叩いてから、力を抜き、腕を垂らす)

ゴールディ:ねえバーサ。考えてもごらん。病院に行けば、清潔な、きれいな部屋で、まとな食事をして、好きなだけぐっすり眠れるのよ。

バーサ:そこで死ねって! 手を貸して!(と起き上がろうとして)

ゴールディ:(近寄って)興奮しないで、バーサ。

バーサ:手伝って! ねえ! あたしのガウンどこ?

ゴールディ:バーサ。起きられるような体じゃないのよ!

バーサ:黙れ! このくそババア! リーナはどこ? あの子に手伝ってもらって、こんなとこ出てく。

ゴールディ:で、どうするの?

バーサ:出てくのよ。

ゴールディ:どこへ?

バーサ:関係ないでしょ、あんたには!

間。

ゴールディ:そう。じゃリーナを呼んでくるわ。

バーサ:待って!(痛々しく立ち上がると、ドレッサーに向かってよろめいて)そのトレイの下を見てくれる。その、クシとブラシの乗ってる……(あえぎながら、揺りイスにくずれ込む)……その下に、五ドルあるから。

ゴールディ:バーサ。あんたにお金なんかあるわけないでしょう。

バーサ:どういうことよそれ?

ゴールディ:どうもこうも、病気になってからこっち、なんであんたにお金なんかが……

バーサ:嘘よ! この嘘つき女!

ゴールディ:(ムカついて)なによ。その口のきき方!

二人、睨み合う。
サテンの運動着のような服を着た少女が、面白そうに覗いて、笑って消える。

バーサ:リーナを呼んで。あの子なら嘘はつかない。

ゴールディ:(ドレッサーのほうへ)ほらよく見な、バーサ。これでどう? このトレイの下には……ほら、ね、なにもないじゃない。あるのはハガキ一枚、それも大昔に、チャーリーから来た。

バーサ:……盗まれた……盗まれた……(しだいに速く)ひとが疲れて、具合が悪くて、動けないでいるうちに、チキショウ! 盗まれたあ! こんなところ、あたしが元気だったら、たたき潰してやる! とられたもんは取り返すわ! でなきゃあんたから盗み取ってやる、チキショウ……

ゴールディ:自分で使ったんじゃない。ジンを買ったんでしょ、それで。

バーサ:違うわ!

ゴールディ:火曜日の晩でしょ。あんたが倒れた晩。あんた自分でジンを買ってきたのよ。誓ってもいいわ、神様に。

バーサ:神様なんか死んじまえ! リーナを呼んで! 陰謀よ!(立ち上がってフラフラとドアへ)リーナ! リーナ! 警察を呼んで!

ゴールディ:(動揺して)なに言ってるの! バーサ!

バーサ:(さらに大声で)警察を呼んでよ!(力尽きてドア脇にくずれ落ちると、激しく泣いて片手で目を覆う)

再び、外から音楽。人々の踊る足音。

ゴールディ:おとなしくなさい、バーサ。ほらここに座って。

バーサ:(くってかかって)おとなしく? この淫売! 警察を呼んでよ。警察を……チキショウ!

ゴールディ、バーサの腕をつかんで、格闘するが、バーサ、振り払って、

……訴えてやる。おしまいよ。あんたなんか。あんたなんか、死んだ黒んぼの死体からだって小銭を盗むんじゃないか。笑わせんじゃないわよ! 心が広いんですって? 入ってくるなり、ひとのご機嫌をうかがっちゃってさ……なにが神父よ。なにが懺悔よ……警察を呼びなさいよ!(壁を叩いて泣きじゃくる)

ゴールディ:(どうしようもなく)さあ、ベッドに戻って。今、鎮静剤とアスピリンを持ってきてあげるから。

バーサ:あたしの25ドル返して! あんたが盗んでった25ドル!

ゴールディ:バーサ……

バーサ:返して! 訴えてやる!(口からヨダレがキラキラと糸をひき、分裂症患者の発作のように立ち尽くして)……この町には知り合いがいっぱいいるんだ。あんたなんか一発でぺちゃんこになっちゃうような知り合いがさ……ハメようたってぜんぜんヘッチャラなんだよ!(と目をキッと見開いて)宿無しか? アハハ!(と狂気じみた笑い)笑わせんじゃないわよ。憲法じゃ、人権ってもんが保証されてんだ!(と笑い止み、揺りイスまで行って崩れ込む)

ゴールディ:(非常な恐怖でもってバーサを見ていたが、やがて恐る恐るその脇を通って、怯えたように息を飲むとドアから出ていく)

バーサ:ねえチャーリー。チャーリー。あたしのあなた。あなた!(頭を揺さぶって苦痛の中で微笑んで)ひどいことしたわね、あなた。あたしを捨てて、コーラスガールと結婚したりして……ああ! 好きよ。あなたが好きよ。胃が捩れるくらい……(と陶酔感は去り、再び精神分裂的な疑惑に戻って)あのくそババア! どこに行った? あたしの10ドル! あたしの10ドルはどこ! ねえ! 返しなさいよ! ひとの金に手なんか出したら、どうなるかわかってんの!……ねえ、チャーリー……頭が痛いの。ダメ。今夜は行かないで。(揺りイスから立ち上がり)氷枕! 頭が痛いの! 二日酔いなの!(と笑って)宿無しか? アハハ。笑わせんじゃないわよ。弁護士を呼んでこいってんだ。この町じゃ、あたしはちょっとした顔なんだからね……(と笑う)笑わせんじゃないわよ。

リーナがピンクのサテンのショートパンツとシャツを着て、ドアから入ってくる。

(薄目で見て)誰?

リーナ:あたし。リーナ。

バーサ:ああリーナ。こっちに座って。楽にして。タバコは? あたし気分がよくないのよ。タバコなんかないか。あいつが持ってっちゃったのよ。なんでも持ってっちゃうのよ、あいつ。さあ座って、ねえ……

リーナ:(ドア口で)ゴールディが、あなたの様子がよくないって。だから、今夜はちょっと顔を出しただけなの。

バーサ:そう? 笑っちゃうわね。……大丈夫よ。今夜からまた働くわ。ホントよ。いつだってあたしはちゃんとやってきたでしょ? 負けたことなんかなかったでしょ? そりゃ今は、ちょっとね、ツイテないけど……でも大丈夫!

同意を求めるような、間。

大丈夫よ。リーナ。やれるわよ。まだそんな年じゃないもの。まだ見られるでしょ、あたし? ねえリーナ?

リーナ:ええそうよ。バーサ。

バーサ:なによ。その笑い?

リーナ:笑ってなんかいないわ。

バーサ:(薄く微笑んで)まだ見られるって聞いたら、あんた笑ったわ。

しばらく間。

リーナ:違うわ。勘違いよ。バーサ。

バーサ:(しゃがれた声で)いいわよ、リーナ。あたしはね、この町の市長とだって昵懇なの。二人はそういう仲なの。わかる? だからあんたがあたしをハメようたって、ぜんぜんヘッチャラ。へでもないわ。……宿無しか? アハハ。ホント、笑わせんじゃないわよ! リーナ! あたしのスーツケースはどこ! あたしのスーツケース……(体をひきずるように部屋を歩き回って、最後にベッドに雪崩れ込む)

リーナ:(ベッドに近づく)

バーサ:……ダメ。疲れてるの。寝かせて。頭がシャンとするまで……:

ゴールディがドア口に現れる。ゴールディとリーナ、意味ありげに目を交わす。

ゴールディ:どうバーサ? 決心はついた?

バーサ:決心ってなに?

ゴールディ:どうするつもり?

バーサ:ほっといて。疲れてるの。

ゴールディ:(何気なく)そう。病院には電話しといたわ。あなたを連れに、車をよこしてくれるって。きれいでさっぱりした部屋に入れてくれるってよ。

バーサ:いっそ川に捨てたら? そのほうが税金だって無駄使いしないで済むわ……そうか。この体が川を汚染するほうが恐いか。じゃあ焼くんだね。それが、この体の毒を消すたった一つの方法……笑わせんじゃないわよ! リーナ、その女を見な。その淫売女を。自分じゃ心が広いと思ってる、その女を! 笑わせないでよ。広いのはケツの穴だけじゃないか。この、淫売! 入ってくるなり、人のご機嫌うかがってさ、神父を呼ぶだの、慈善病院に入れるだの……関係ないわよ、あたしには!

ゴールディ:そういう口のきき方はよしたほうがいいんじゃない? 拘束服を着せられるわよ。

バーサ:出てけ!(グラスを投げつける)

ゴールディ:(悲鳴をあげて逃げ去る)

バーサ:(リーナに)さあ座って……手紙を書いてくれる? 紙はその、キューピーの下にあるでしょ。

リーナ:(ドレッサーの上を見て)ないわ。バーサ。

バーサ:また盗まれた! 

リーナ:(ベッド脇のテーブルへ行って便箋を取って)これじゃない。バーサ。

バーサ:そう? さあ、じゃあ書いて。宛名は「チャーリー・オーリッチ様。メンフィスでいちばんの金物屋の社長様へ」。いい書いた?

リーナ:住所は? バーサ。

バーサ:セントラルアベニューの536。いい? そう……「親愛なるチャーリー。あいつら、あたしを精神病院に閉じ込めようとしています。法律上の手続きも踏まずに、罪を犯したと言って」……いい? 

リーナ:(手を止める)

バーサ:「でもあたしは完全に正気なの、チャーリー。狂っちゃいないの。今もこれからも」……いい?

リーナ:(下を向いて書くふりをしている)

バーサ:「連れに来て、チャーリー。あたしをここから連れ出して。あなた。昔を思い出して。愛とキスを送ります。あなたのバーサより」……待って。追伸。「奥様はお元気で……」ダメ! 消して! 関係ないわ、そんなこと。全部書き直し。全部……

痛ましい沈黙。

バーサ:(溜め息。ゆっくりと寝返って、濡れた髪をかきあげる)新しい紙を。

リーナ:(顔を上げて、便箋から一枚破り取る)

少女がドアから顔を突き出す。

少女:リーナ!

リーナ:いま行くわ。

バーサ:いい?

リーナ:はい。

バーサ:これだけ書いて。「元気?」……「バーサより、チャーリーへ、愛を込めて」……いい? 書いた?「元気?」……「バーサより、チャーリーへ……」

リーナ:(顔を上げて、ブラウスを直しながら)はい。

バーサ:「愛を……

外で音楽がまた始まって、暗くなる。