夕方の五時。
春めいた、陽気な黄昏れどき。トムが玄関に現れる。音楽。

トム:路地の向こうに、パラダイスというダンスホールがありました。春の宵ともなれば、窓もドアも開け放たれ、音楽が外まで流れます。ときどき明りが消され、天井から吊るされた大きなガラスのボールに光が当てられる。それがゆっくりと回ると、やわらかな虹が薄暗がりをよぎってゆく。すると、オーケストラはワルツかタンゴか、ゆるやかな、官能的なリズムです。恋人たちが飛び出してくる。人目につかない路地裏で、ゴミ捨て場や電信柱の陰で、キスしあう姿――。


これが慰めだったのです、私と同じように、なんの変哲も冒険もない人生を送るものにとっては……。だがこの年、冒険と変化はすぐそこで、角を曲がった先で、こういう若者たちを待ち伏せていました。ドイツの、ヒットラーの山荘(ベルヒテスガーデン)を包む霧の中で……。イギリスの、チェンバレン首相の持つ傘のひだの間で……。スペインではゲルニカです!


でも、ここではただ、スウィングジャズと、お酒と、ダンスホールとバーと映画とセックスが、薄暗がりに浮かんだネオンように、まやかしの虹となって氾濫しているだけでした。疑うことを知らない若者たちが「世界は日の出を待っている」を踊っている、その向こうで、世界中が爆撃を待っていたのです!