初めて私たちLABO!が、シェークスピアに真正面から取り組むのが、この『Pの航海』です。
原作は、シェイクスピアのすぐれた実験劇です。彼のドラマの美しさが集約されています。父と娘の悲劇的な運命が、演劇のもつ奇跡の力で和解され、そのとき現実世界には「本当に豊かな空間」が取り戻されるのです。それが最晩年のシェイクスピアの演劇的な夢だったのでした。私たちは忠実にそれを追求します。
物語は、ちっぽけな帆船が大海原を進むように、自然と人間、国家と人間のあいだをせめぎ合いながら進んでゆきます。かつて神話の時代に、地球上の全人類が共有していた「自然の中を生きる叡智」が、そこに刻まれています。それから国家というものを生み出してしまった社会の矛盾とひずみが描かれています。
そのなかで主人公ペリクリーズは、国家と国家の間にある大きな壁、不寛容な壁に向かって、結婚や交易や交流や対話を通じて立ち向かってゆきます。生きるために動物を殺すことから目をそらさず、自然を神のように怖れ、尊敬していた民衆の知恵を再発見してゆきます。そうして「王の中の王」となります。自然の中で運命に揺さぶられ、国家の中で欲望に揺さぶられながら、なぜこんなに苦しい人生を生きなければならないのか、私たちがいまも思っている問いを解き明かし、解決してゆく等身大の英雄なのです。
私たちはいま、帝国アメリカとイスラム諸国、国連、日本、少数民族問題と、さらに国家をめぐって揺れ動いています。あるいは、食肉牛に肉骨粉を与える食材産業のように、自然への畏敬の念を失ってから、すでに長い時間が経ってしまいました。
私たちLABO!は、これまでNOISE(如月小春主宰)から受け継ぎ、発展させてきた独自の身体性とアンサンブルによった〈物語る力〉をここに集約させます。時代を越えて、たいせつに語り継がれてきた原物語群が、シェイクスピアという天才によって一つの普遍的な舞台テキストとなった、それを、新しい「現代の神話」として小劇場空間に現出させます。

堀内 仁

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