![]() |
時は平安時代末期、平家全盛のころ。所は京都。 前段 郷里の老母から病の重いことを伝える文が届けられ、熊野はそれを宗盛の前で読み上げ暇を請うが、宗盛は許さず、東山(*3)の花見へ同行を命ずる。 中入り(道行き) 東山へ向かう車中。まわりの景色は春色にときめいているけれども、対照的に熊野の心は憂いに沈んでいる。 後段 清水寺に着き、観音に祈念している間に、酒宴は始まってる。熊野は覚悟を決めて、酒宴に混じり、歌を詠み、舞いを舞う。と、折しも村雨が降ってきて、花(*4)を散らす。散る花に喩えて、老母を案じて詠んで詠んだ歌に宗盛は心を解き、ついに暇を与える。熊野は観音のご利生と喜んで、東へと帰ってゆく。
*2 東海道の宿場の一つ。だが、「熊野」を「遊屋」と書く異字体も見られるように、単なる宿場である以上に、遊女の拠点のひとつであった。ただし、当時の遊女という者は、天皇との交わりもあったことからわかるように、一概に卑下されるような職業ではなかった。 *3 京都東山に在る清水寺は、当時から桜の名所であった。 *4 もちろん桜のことだが、心の花でもあり、また役者の花でもある。 |