登場人物 

テロリスト1
テロリスト2

テロリスト2、銃を持って、テロリスト1、つづいて機関銃をかまえて駆け込んでくる。。

テロリスト2 のがすか、のがすか……。

テロリスト1 ヤレ、ヤレ……。ヤレ、ヤレ……。

テロリスト2 のがすか、のがすか……。

テロリスト1 ヤレ、ヤレ……。ヤレ、ヤレ……。

二人、くり返しながら舞台を一周する。止まる。肩で息をしている。

テロリスト1 ハーハーハー。

テロリスト2 ゼーゼーゼー。

テロリスト1 ハーハーハー。

テロリスト2 ゼーゼーゼー。

テロリスト1 なんてことしやがる……。

テロリスト2 なんだ……?

テロリスト1 のがしちまったじゃねえか……。おい、どこへのがした……?

テロリスト2 おまえがやれやれ言うから、あきらめたのだと思ってとりのがしたんじゃねえか……。

テロリスト1 さてはおまえ、テロリスト言葉を知らねえな……?

テロリスト2 なんだと、知らねえとはどういうことだ……。

テロリスト1 (笑って)ヤレヤレというのは「ヤレ、やっちまえ、今だ!」という意味だ……。

テロリスト2 だったらみんな始めから、おまえの臆病のせいじゃねえか……。

テロリスト1 なんだと、臆病とはどういうことだ……?

テロリスト2 このあいだ丘の上を敵が通ったろ、あのときだって、俺が「逃すな」と言ったら、やっぱりおまえは「ヤレヤレ!」と言って逃げたぞ……。

テロリスト1 そりゃそうだ、あたりまえだ。あの時の敵は頭に赤い旗を立ててたろ。ああいう奴らは無線機を持ってるから、それで立ちどころに仲間が集まってくるってことをおまえは知らねえだろうと思って、だから「ヤレヤレ」とあきれたまでよ……。

テロリスト2 なんだと……。

テロリスト1 なんだよ……。

テロリスト2 いったい全体、おまえとテロリストをはじめて以来、一度もいい思いをしたためしがない。エエイ、こうしてくれる、アハランアハラン、絶交だ……。(と、銃を投げ捨てる)

テロリスト1 オ、「アハランアハラン、絶交だ」と言って銃を大地に投げつけたな、それは俺への挑戦か……?

テロリスト2 挑戦なら挑戦で、それがどうした……?

テロリスト1 俺こそおまえとテロリストをはじめて以来、一度もいい思いをしたためしがない。エエイ、こうしてくれる、ショクランショクラン、絶交だ!(と、機関銃を投げ捨てる)

テロリスト2 オ、「ショクランショクラン、絶交だ」と言って機関銃を大地に投げつけたな、それは俺への報復か……?

テロリスト1 報復なら報復で、それがどうした……?

テロリスト2 もう、ガマンならん、決闘だ……。

テロリスト1 のぞむところだ……。

テロリスト2 おまえが死ぬか……。(と、なにやら思わしげに背中へ手を回す)

テロリスト1 俺が死ぬかだ……。(と、なにやら思わしげに背中へ手を回す)

テロリスト1+2 さあこい、イイヤ!

と、二人、舞台中央で、たがいに余った片手で相手の胸をふんづかんで、左右に動きながら押し合う。結局、素手でもっての相撲である。

テロリスト1+2 イイヤ、イイヤ、イイヤ!

テロリスト2、舞台ギリギリまで押しやられる。

テロリスト2 ヤヤ、待て待て……。

テロリスト1 なんだどうした……。

テロリスト2 (ふり返って)後ろがものすごい崖になってる……。

テロリスト1 ちょうどいい、突き落としてくれるわ……。

テロリスト2 待て待て待て……。落ちたら命がない。真ん中へ戻って仕切り直しそう……。

テロリスト1 よし、そうしよう……。

二人、舞台中央へ戻って、たがいに相手の胸をふんづかんで、左右に動きながら押し合う。

テロリスト1+2 さあこい、イイヤ、イイヤ、イイヤ!

テロリスト1、舞台ギリギリまで押しやられる。

テロリスト1 ヤヤ、バカあぶないわい……。

テロリスト2 なんだどうした……。

テロリスト1 (ふり返って)後ろがものすごいバラの茂みだ……。

テロリスト2 ちょうどいい、突き落としてくれるわ……。

テロリスト1 待て待て待て……。落ちたらメチャ痛いわ。真ん中へ戻って仕切り直しそう……。

テロリスト2 よし、そうしよう……。

二人、舞台中央へ戻って、たがいに相手の胸をふんづかんで、左右に動きながら押し合う。

テロリスト1+2 さあこい、イイヤ、イイヤ、イイヤ!

テロリスト1 (取っ組み合いながら、ふと)だけどアレだあ……。

テロリスト2 (取っ組み合いながら)だけどどうした……?

テロリスト1 イイヤ!

テロリスト2 イイヤ!

テロリスト1 こうして男らしく命がけで戦っているところを人にも見せたいところだ。イイヤ!

テロリスト2 イイヤ! たしかに、メディアがなくては張り合いがない……。

テロリスト1 イイヤ!

テロリスト2 イイヤ!

テロリスト1 (取っ組み合いながら)思うにアレだ、こんなんで死んだら心残りだ。イイヤ!

テロリスト2 心残りだ。イイヤ!

テロリスト1 どうだろう? 田舎で待ってる妻や子に書き置きを残こそうか……。

テロリスト2 うむ。ナイスサジェスチョンだ。イイヤ!

テロリスト1 イイヤ!

テロリスト2 でもどうやってこの手を放そう……?

テロリスト1 うん。それにはいいアイディアがある……。

テロリスト2 どうする……?

テロリスト1 かけ声三つで、三つ目に二人同時に手を放すんだ……。

テロリスト2 それはグッドアイディア……。

テロリスト1 ではよいか……。

テロリスト2 ああ、よいぞ……。

テロリスト1+2 せえので、エイヤ!

テロリスト1 ひとつだ……。

テロリスト2 ひとつだな……。

テロリスト1+2 コラヤ!

テロリスト1 ふたつだ……。

テロリスト2 もうひとつだぞ……。

テロリスト1 ぬけがけするなよ……。

テロリスト2 ぬけがけなんかするか……。

テロリスト1+2 ドコイシャンシャンコラヤっと!

と、二人、同時に飛び離れる。離れるやいなや、手を後ろに回して、

テロリスト1+2 ううおおお、おのれ!

テロリスト1 その手を放せ!

テロリスト2 おまえこそ放せ!

テロリスト1 二人同時に放そう……。

テロリスト2 そうしよう……。

と、二人、そろりと同時に手を放す。

テロリスト1 うん、これで落ち着いた……。

テロリスト2 ああ、落ち着いた……。

テロリスト1 さあ、こっちへ来て坐ろう……。

テロリスト2 坐ろう……。

テロリスト1+2 ドッコラショっと!

と、二人、そろって坐る。間。

テロリスト1 それでおまえ、ペンはあるのか……?

テロリスト2 いや、ないな……。

テロリスト1 それじゃダメだ。俺はそういうこともあるかと思って、ちゃんと用意してきた……。

テロリスト2 それは素晴らしい……。

テロリスト1 というわけで書くのは俺が書くから、おまえは文章を考えろ……。

テロリスト2 よしわかった……。うん、書き始めが問題だな……。

テロリスト1 書き始めが問題だ……。

テロリスト2 よし、「一筆啓上、お元気ですか?」といこうか……。

テロリスト1 今これから死ぬというのに「一筆啓上、お元気ですか?」はないだろう……。もっとちゃんと考えろよ……。

テロリスト2 うん、そうだな……。書き始めがポイントだからな……。

テロリスト1 書き始めがポイントだ……。

テロリスト2 よし、「気色もチラホラ春めいて、いかがお過ごし?」といこうか……。

テロリスト1 だから、今から死ぬというのに「気色もチラホラ春めいて、いかがお過ごし?」はないだろう……。もういい、俺がバシッ決めてやるわ……。

テロリスト2 ああ、そうしてくれ……。

と、テロリスト1、紙を出し、扇をペンにして、さらりさらりと書き始める。

テロリスト2 オオ、オオ、書くわ書くわ、墨くろぐろと、ぴんぴんはねて書いとるわ……。

テロリスト1 (筆を置いて)よし。できた……。

テロリスト2 なんて書いたんだ……?

テロリスト1 書き出しは「ヤレヤレ」だ……。

テロリスト2 まったく「ヤレヤレ」だな……。

テロリスト1 (読んで)「ヤレヤレだ。ちょっと魔がさし、世間を飛び出し、テロリストなどに成り果てまして、世間さまの常識を破壊しながら生きながらえてきましたけれど、ふとしたことから仲間とケンカになって、冗談じゃねえこのやろう、いざとなったら俺にはこれが!」(と背中に手をまわす)

テロリスト2 おのれ!(と飛んで離れて背中に手をまわす)

テロリスト1 (紙を置き、飛んで離れて)なんだどうした……?

テロリスト2 「いざとなったら!」と言ったな……。

テロリスト1 今のは文章だ……。

テロリスト2 なに、文章だと……。

テロリスト1 そうだ文章だ……。

テロリスト2 それならそうと言ってくれ。ああ、胆をつぶした……。

テロリスト1 さてここから先は、文学的に味つけをした。いっしょに読もう……。

テロリスト2 うん、読もう……。

二人、また並んで坐る。

テロリスト1 (読んで)「いざとなったらこれだ! という覚悟なので、」

テロリスト1+2 (読んで)「このままここで死んだとしても、不思議はないと思ってくれ。たとえ神がわれらのことを忘れたもうたとしても、おまえだけは俺のことを忘れないでいてくれ。頼む。アーメン」と書きとめた、ペンの向こうの妻や子を思えば胸がつぶれされて、痛む思いに耐え切れず……。

二人、なんとも泣けてくるポーズ。

テロリスト1 いや、なんとも泣けてくる……。

テロリスト2 たしかに、なんとも泣けてくる……。

テロリスト1 俺はもう死にたくなくなった……。

テロリスト2 俺も死にたくなくなった……。

テロリスト1 じゃ、死ぬのを先へ伸ばそう……。

テロリスト2 うん。ナイスサジェスチョンだ……。

テロリスト1 で、どれくらい伸ばそうか……?

テロリスト2 四五日は伸ばそう……。

テロリスト1 いやいや、四五日ではあんまり短い。も少し伸ばそう……。

テロリスト2 うん。じゃ、一年か二年伸ばそう……。

テロリスト1 一年二年も夢みたいなもんだ……。思うに、この人生は、誰に見られたわけでもない。おまえと俺とが仲直りをすりゃ済むことじゃないか……。

テロリスト2 そうかもしれん……。

テロリスト1 仲直りをして死ぬのはやめよう、と思うが、どうだろう……?

テロリスト2 グッドアイディアだ……。

二人、起き直り、

テロリスト1+2 (手を合わせて祈って)アーメン……。

テロリスト1 じゃ、このことを歌いながら帰ろう……。

テロリスト2 よし歌おう……。

テロリスト1 ♪ 思えばムダなカミはいらない……(手紙を破る)

テロリスト1+2 ♪ 思えばムダなカミはいらない、
われら男が手に手を取って、
「あやうくバカをみるとこだった!」
さあ、わがふるさとへ、さあ帰ろう、
ムダ死にせずにさあ帰ろう。

二人、ぐるりと舞台を回って、正面で歌い終わる。

テロリスト1 オイ、あれが聞こえるか……?

テロリスト2 うん、なんだ……?

遠くで銃声が聞こえる。

テロリスト1 おまえと俺とはあやういところで命をとりとめたんだ。きっと先の寿命は長いぞ……。

テロリスト2 おう。長生きできるぞ……。

テロリスト1 何千年も……、

テロリスト2 なん回死んでも……、

テロリスト1 なんどでも……、

テロリスト2 こうしておまえとケンカもしよう……。

テロリスト1 さあ、行こう……。

テロリスト2 さあさあ、行こう……。

テロリスト1 さあ、行こう……。

テロリスト2 さあさあ、行こう……。

二人、いそいで、そろりそろりと去っていく。

註:LABO! 上演時の楽曲・歌の楽譜についてはlabo@hello.email.ne.jpまでお問い合わせ下さい。

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