拝啓 フィリップ=トゥルシエ様

私はフランス語が出来ませんので日本語でのお手紙をお許し下さい。
優秀なスタッフ殿の仏訳を通して、貴兄の手に渡る事を願います。

さて、この度は開催国の代表監督という大任、並びに史上1勝も、いや1点の勝ち点も挙げていないわが国の代表監督の任、大変お疲れ様でした(貴兄の任期がこの6月末までとのことを伺っておりますので、それを前提にお話しております)。
この4試合、日本代表の1サポーターとして、チケットこそ入手できなかったものの、自宅で、職場で、あるいは国立競技場でと観戦をし、熱狂し、狂喜乱舞し、感涙し、そして敗北を見届け、大変充実した生涯忘れられない時間を過ごす事が出来ました。

ワールドカップの開催を決めた6年前、日本はワールドカップに出場経験のない国でした。
以来、このイベントを成功させるという大きな責任は、有形無形のプレッシャーとなって関係諸氏及び国民にのしかかってきました。
今、グループリーグ突破という、日本サッカー史上に刻まれる足跡を残し、開催国としての最低限の責任を果たし、大会の盛上げに少なからず貢献できたであろうことは、1サポーターとして、1日本国民として大きな誇りです。
貴兄に心より御礼を申し上げます。

私は正直、貴兄の代表監督就任以来、失礼ながら貴兄の能力に懐疑的な立場で、友人知人とも度々舌戦を繰り広げていました。
貴兄の経験では、この未曾有の大難行に臨む日本代表には不足だと思ったからです。
Jリーグが出来て10年目の今日、海外強豪リーグ選手もちらほらと輩出する日本は、潜在能力的には十分16強入りは可能で、その指揮は16強そしてそれ以上の世界を経験したものにこそ託したいと考えたからです。
しかし、結果的に貴兄は見事にやってのけてくれました。
一私人の頭の中のこととはいえ、私の失礼を詫び、貴兄に最大限に感謝いたします。
こんなにも充実した日々の立役者は間違いなく貴兄と貴兄のチームです。
本当にありがとうございました。

18日のトルコ戦の敗戦後、貴兄の、「4年間の日本代表監督を誇りに思う」と述べたコメントは美しく、胸を打ちました。
世論で言われるように「勝てた試合だ」との思い、そして悔しさは貴兄と貴兄のチームが一番感じている事でしょう。
敗戦の夜は悔しくて眠れなかったのではないでしょうか?
私も酒に力を借りました。
私は、4年前、なすすべない3つの敗戦の積み重ねに絶望しましたが、今回はワールドカップの舞台での勝利の喜び(本当に至高の喜びでした)と、「トーナメントでの敗戦」という悔しさを新たに知りました。
これは今後の日本代表のスタンダードとなるものであり、ここからは、まさに貴兄の言う、「新たなステージ」の始まりです。
その新たなステージの冒険にサポーターとして立ち会える幸せに感謝します。

現時点での貴兄の去就は何ら分かっておりませんが、貴兄の心の故郷ブルキナファソとともに、わが国日本がその一列に加わる事を願ってやみません。
4年後のドイツ大会までのあらたな冒険へ、日本代表は邁進します。
貴兄もまずはリフレッシュをし、次の冒険へ旅立ってください。
私は日本代表と共に貴兄を応援します。

                                   敬具

追伸:18日の敗戦後、帰宅途中で携帯CDプレイヤーをかけると、流れてきたのはマーラーの交響曲9番4楽章(終楽章)でした。死や苦を含め、人の世の全てをようやく受容れることが出来たかのようなマーラーのとても美しい旋律が、貴兄と貴兄のチームにとても相応しく思えて、私は泣きました。


2002/06/19
From:甲斐智堯

>>>TomotakaReports! の一覧へ
>>>ilabo!you MENU