はじまりは、いつも偶然の風邪の中……、
コホン、コホン!


3月1日(木)

 さて、稽古がはじまった。
 昨日はいいかげん、花粉に悩まされたが、今日は緊張のためか、ぜんぜんだった。
 春は、人をウキウキさせる。
 空気は冷たいが、この雨も、ひと降りごとに暖かくなるのだと思うと悪くない。
 ただ、心配なのは、風邪ばかり、だ。

 日常的に、ひんぱんに稽古をしているのでないLABO! の稽古初日はいつも、心と体がおぼつかない。さぐりさぐりにコトが進んでいく。
 というのも、日常のなかでは、俳優の体と心は、舞台に立つための気合いをどうしても削がれていくからだ。舞台には日常は、ない。演技とは、それだけで摩訶不思議な、非日常なのだ。

 いつものアップの後、ストップ・スロー、それからアンサンブル。歩行。摺り足。狂言的な表現。声のアンサンブル。コーラス隊(地謡)のイメージ。シテの風景化……。やったのはそんなところ……。立ち稽古のための下地つくりである。9日までは、一週間こんなペースで進んでいくだろう。筋肉痛が限界を超えて、自在に動き出すピークを探る。スポーツ選手の自主トレと同じだ。

 声の表現は難しかった。
 今回は「能と狂言を遊ぶ」といいつつ、萩原朔太郎などの「詩」を引用しているが、言葉を声だけで表現するのはとても難しい。ボクとしては、やはり体を使いながら、という視点が必要だと思った。声とは、体の中でうごめいているものの「岬」なのだ。突端の奥には、未曾有の肉体が眠っている……。

 Sに言ったこと、「あなたは、自分が表現するものが舞台のすべてだと思ってはいけない。たとえ、あなたがKという役をもらったとしても、この「能」のなかでは、Kという役を表現するのは、あなただけではない。コーラス隊(地謡)も含めて、空間全体がKを表現しているのだ。だから、ひるがえって、自分も含めて、空間全体がどう見えているかを考えてほしい」

 Rは腹を壊した。風邪ウィルスに腸を犯されたらしい。これで奴の処女も終わりだ。
 Aの摺り足は、堂に入って、軽快だった。Aはホントに、独自の演技の楽しみ方を持っている。それを壊さずに生かしたいと思う。



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