空間に神秘を宿すコト
風琴工房「ゼロの柩」を見て。
風琴工房も今注目の劇団といわれている一つだ。
作・演出の詩森ろばサンは、学生からの知り合いで、前身の「どんぺい劇団」にはボクも客演させてもらったことがある。詩森サンもボクの昔の劇団を手伝ってくれたりしたことがある。
そんな経緯からか、もともとセンスが似ているからなのか、演出の方法がけっこう似ているなあ〜と、久しぶりに見て思った。
(今回は少し「演出」についてマジに言語化してみようと思う。その第1段という感じで……)
詩森サンの演出も、去年「能」にごだわったボクの演出も、空間配置を考えたヴィジュアル重視の演出で、音楽的な意識=時間の推移に関する意識がやや甘くなりがちであった。テンポ感というコトだ。
難しいのは、この空間と時間の問題が別々のことではなく、つながって出てくる問題だということだ。
それは、物語を見る「視点」の違いから出てくるものなのではないだろうか、と思う。物語を一つのシーンごとに、別々に見ていくと空間的な問題意識が前面に出てくるし、シーンとシーンの関係、さらに物語全体から見ていくと時間的な問題が見えてくる。
シーンとシーンのつなぎを心理的にだけ追ってしまうと時間の意識は希薄になり、それをリズムとテンポの変化として捉えると、時間のコトが見えてくるのである。
もちろん、これは一つのシーンの中の、セリフとシーンの関係にも同じように言えるかもしれない。
微視的な視点が空間の意識を生み、巨視的な視点が時間の意識を生むのだ。
(これは全体と部分という考え方を話の前提としている。)
演出家にはおおまかに美術的な人と音楽的な人がいるように思う。
といっても単純に、美術的な人が装置や衣裳など視覚的な要素に凝り、音楽的な人が音楽や音響などに凝るということではない。問題は「空間と時間の意識」だから、空間的に音楽を使う人もいれば、時間的に装置を使う人もいるというコト(ややこしィ〜)。
でもって、ボクも詩森サンも美術的な人で、美術的な演出家というのは(自己分析してみると)どこかで空間のもつ神秘的なマジックを信じているように思う。(音楽的な演出家だってどこかで神秘的なものを求めているのだろうが、それはボクにはよくわからない。)
空間のもつ神秘的なマジック、なんていうとマユツバな感じがするけれど、ホント、これはある種の演出家にとっては現実的な問題なのです!
というのも、空間を処理するときの抽象度に関わっているから。具体的な装置を建て込んで、舞台空間を「説明」しきろうとする演出家は、あまりこの神秘的なマジックを信じてはいないのだと思う。こういう演出家のほうがけっこう音楽的な人だったりする。
(こういう空間の神秘性のコトを言い出して、いちばん影響を与えた先駆者は、もちろんピーター・ブルックだ。「なにもない空間」だ。あと、ベケットもそうだろうし、お能もそうだ。)
しかし逆説的だけれど、舞台空間にホンモノの神秘が宿るためには、時間的な要素がいちばん重要だったりする。ここが美術的な演出家=抽象的な舞台空間を扱う演出家のいちばんの課題なのだ。
抽象空間に「音楽」という神秘を宿す、といってもいい。
そのためには、抽象化された空間にいきいきとしたリズムが流れ込んでくる「契機」がなにより必要なのだ。リズム、つまり「リアリティーの感触」のコトなのだが、それは、物語の主題やモチーフにも関わってくるし、また役者の身体性にもかかわってくるコトなのだ。
役者の身体にこだわる演出家は、動的な抽象空間をつくろうとするし、物語の主題やモチーフにこだわる演出家は、わりに静的な抽象空間をつくろうとする。今のところは、ここらへんがボクと詩森サンの違いだ、と思う。
詩森サンの抽象空間は、すべてのアイテムを静的に配置したものだ。
だから、そこに「心を動かす」ものが生まれてくるとしたら、物語のアヤ(ストーリーの起伏と言ってもいい)が、そこでいきいきとしたリズムや呼吸を刻んでいるかどうかにかかっているのだと思う。ひとつの言語的なイメージ(実際の『ゼロの柩』の中では「ひまわり」「小鳥」「死刑」「スキヤキ」など)が、「意味」の殻をやぶって、生き物のようにうごめき出すような瞬間があるかどうか、だ。そういう瞬間が点となって、やがて点から点へ動的な線が流れ始めるか、どうか、だ。
これは唐十郎の劇作方法に近い。
が、この「うごめき出すイメージ」というものは、だいたい「詩的な比喩(=メタファー)」を駆使するのが常套手段だけれど、今という時代のリアリズムはそっちを向いていない、というところが難しい……。
抽象空間を好む演出家にとっては、けっこう試練の時代なのである。
もちろん不可能ではない。ぜんぜん不可能ではない。
しかし、成功するためには、とても周到な準備がいるのだ……。
(20日まで、下北沢スズナリでやっています。くわしくは風琴工房HPへ。見に行ってあげてね!)
2002.01.12
JIN
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