Chronology / volume5 / photo galleryChronology / volume5 / photo gallery
ドラキュラ伯爵の秋 CountDracula in Autumn
|
|
販売員 何を言ってるんですか、あなたは……？ 執事 ですからね……。 販売員 ま、いいです……。私も別に、呼ばれたからやってきた、というわけじゃありませんから……。（バス停の標識とベンチを見つけて）これですか……？ つまり、やってきたらたまたま、誰かに呼ばれたような気がした、というだけのことです……。 執事 でも、いいですか、私が呼んだんじゃないってことは、よく覚えておいてくださらなくっちゃ困りますよ……。 わかってるって言ってるじゃありませんか。あなたが何故、そんなことにこだわるのか知りませんけどね……。少なくとも私は、常に自由意志で行動しているんです……。これなんだろうな……。（標識の文字が読めない）すみませんが、これ……？ 執事 確かに私は、死んだら犬は犬でなくなって、犬でないものはお散歩させなくてもいいんだってことをわかってくれる誰かがやってきて欲しいと……。 販売員 犬でないものって……。それ、犬じゃないんですか……？ 執事 犬じゃありません……。 |
 |
魔女 そうしたら私は、犬に噛まれたんですよって、お答えすることになるでしょう……。 販売員 犬に……？ 執事 （販売員に）あなた……。 販売員 でも……。 魔女 犬にです……。そして、じゃあその犬はどうなりましたかって、その人が聞きましたら……。 執事 （販売員に）聞くんですか……？ 販売員 ええ……。 執事 後悔しますよ……。 魔女 死にました……。 |
|
|
販売員 どうしたんです……？ 魔女 音を合わせてるんです……。 大男 歌わせるのかい……？ 執事 あなたがやめろって言えばやめますよ……。 販売員 でも……。 猫男 一番……。（歌う）アカイトリ、コトリ、ナゼナゼアカイ、アカイミヲタベタ……。 歌が始まると、大男、執事、魔女は、顔をそむけて、耳をふさぐ……。歌い終わって、やや、間……。 魔女 （顔をもどして）拍手してやって下さい……。 |
|
|
販売員 ドラキュラ伯爵がいるのかい……？ 女 あなたが呼んだんじゃありませんか……？ 販売員 私が呼んだ……？ 女 伯爵がそう言っておられました……。あなたに呼ばれて、やってきましたって……。そうじゃなかったんですか……？ 販売員 そりゃ、まあ、そういうことがあったような気も、しないではないんだか……。 女 （販売員に手をとって）逃げましょう……。 販売員 （たじろいて）逃げようって、どこへ……？ 女 どこでもいいんです。早く。ここではないところへ……。 販売員 ここではないところって言ったって……。 |
|
|
伯爵 だからさ……、ねえ、君……。 執事 （販売員に）あなた……。 販売員 何ですか……？ 伯爵 聞いているかい……？ 猫男 聞いてるかいって聞いてるんです……。 販売員 聞いてますよ、もちろん……。 伯爵 私たちは、ほんのちょっとここに寄って……、ほんのちょっと滞在させてもらっているだけでね……。（看護婦に）滞在って、どういう字だい……？ 看護婦 存じません……。 |
 |
看護婦 伯爵……。あれ、伯爵のじゃありませんか……？ 伯爵 私のかい……？ 大男 何を言ってるんだ、伯爵にはちゃんと二つあるじゃないか……。 看護婦 そうじゃないんです……。伯爵はいつも、お亡くなりになった奥方様のお耳を、ポケットに入れてお持ちになっておられましたから……。 販売員 ……。（あたらめて、手の中の耳を見る） 伯爵 そいつは、少しぬれているかい……？ 販売員 ええ、何ですか、少し……。 伯爵 それじゃ私のだ……。だから家内のだよ……。 |
 |
魔女 テーブルのキズまで、あの時のまま……。これは、あなたがナイフでつけたものですよ…… 猫男 ええ、お誕生日のお祝に、伯爵からいただいたナイフです……。もう、どこかへいってしまいましたが……。 大男 砂糖がまだ残っている……。すっかりほこりをかぶって……。（何か小さなものを拾いあげて）これを覚えているかい……？ 執事 くるみのかけらです……。あなたは、手で割りましたよ、くるみを……。 看護婦 奥方様のティーカップに、飲みの残しのお茶のかすが、まだそのままこびりついております……。 伯爵 いつもだったよ……。あいつはいつも、最後の一口を残すんだ……。もったいないと言ってね……。 |
|
|
伯爵 ねえ、君……。 販売員 なんです……？ 伯爵 それについて君はどう思う……？ 販売員 どう思うって言われましても……。 伯爵 もちろん、私にはもうそんなつもりはないよ……。言ったろう、私はもう血は吸うまいって、決心したんだ……。 販売員 それは、どうも……。 伯爵 だからね、私は今、我慢をしているんだ、君の血を吸うのをさ……。わかるだろ……？ 販売員 わかります……。 伯爵 寒いのは、そのせいなんだ……。 販売員 そうですか……。 伯爵 そうですかじゃないよ……。 販売員 何ですか……？ 伯爵 何とかしようって気にならないのかね……？ |
撮影：松浦文生 / (c)2000 labo!, all right reserved
