Chronology / volume4 / photo gallery


H(アッシュ)〜女と男と、nudeな十夜〜


第1夜「行ったり来たり」作:S. べケット
 ヴィ:甲斐智堯  リュ:真胡珠央  フロ:稲田恵司

ヴィ リュ。

リュ うん。

ヴィ フロ。

フロ うん。

ヴィ 私たち三人が、最後に会ったのはいつかしら?

リュ 黙りましょう。

  沈黙。
  ヴィ、下手に去る。
  沈黙。


第2夜「蒲団」作:太田省吾「裸足のフーガ」より
 男:広田豹  女:瀧川真澄

女 ……ね、あなた。

男 なんだ。

女 この部屋が、この部屋がですよ、こう、外からぽかっと見えたらって考えたことあります。ね、壁がないんですよ。ですから、夜の中に、この部屋が、ぽかっと開いてるんです。そしたらどうします。

男 うん、いやだよ。

女 ですから、たとえ話です。

男 だれも見ないよ。

女 そうかしら、見るわ。あたしだったら見るわ。


ときどき出てくるストーリー「花占い」作:E. オールビー
 彼:程島鎮磨  彼女:高村志穂

彼 (下手に現れ)ねえ、俺のシャツどこ?

彼女 (無視して観客に)でね。その子、それをあたしの胸につけたの……飾ったの。その子の言い方で言えばね……この左胸の、ちょっと下の方に。だから……ちょうど真上に。(左手のバラでやって見せる。以後そのまま)

彼 (舞台を横切りながら)シャツ!

彼女 あたし、こう首を傾けてたんだけど、体温であったまっちゃってて、やっぱり匂うわけ。そしたら……そこにもう一人男の子が、テーブルに現れて、立ったまま、あたしを見下ろすの。なんだか……傷ついた顔で。

彼 (右往左往して)ねえ、シャツだって。


第3夜「夜」作:H. ピンタ−
 男:甲斐智堯  女:稲葉浩美

男 覚えてるだろ? 俺の指が触ったのを。

女 あなたの手が? オッパイに? ホント? ちゃんと触った?

男 覚えてるだろ? 俺の指が触ったのを。

  間。
 
女 後ろから?

男 そうさ。

女 でも、後ろは柵だったのよ。押し付けられてたんだから……後ろは。向かい合ってたのよ、私たち。見つめ合ってたんだもの。コートのボタンだってかかったままだった。寒かったから。

男 それを俺が外したんだ。


第4夜「バーサよりよろしく」作:T. ウィリアムズ
 ゴールディ:稲田恵司  バーサ:真胡珠央
 リーナ:遠藤真美子  少女:石神夏希

バーサ ……そう。おっしゃる通り。ゲームのルールくらい、あたしだって知ってる。一度堕ちたらそれっきり、二度と這い上がれない!

ゴールディ ねえバーサ。考えてもごらん。病院に行けば、清潔な、きれいな部屋で、まとな食事をして、好きなだけぐっすり眠れるのよ。

バーサ そこで死ねって! 手を貸して!(と起き上がろうとして)

ゴールディ (近寄って)興奮しないで、バーサ。

バーサ 手伝って! ねえ! あたしのガウンどこ?

ゴールディ バーサ。起きられるような体じゃないのよ!

バーサ 黙れ! このくそババア!


第5夜「きみのゆめをみた」作:太田省吾「きみのゆめをみた」より
 夫:甲斐智堯  妻:瀧川真澄

夫 ……どうだい。

妻 ……。

夫 ……感想だよ。

妻 いい夢……よかったわね。

夫 きみってのは、お前のことだ。

妻 あなたの夢よ。

夫 しかし、お前が出てきたんだ。

妻 ……で、どうしたの、あなたとあたし。

夫 だから……求めたんだよ、おれはお前を。

妻 アザラシのように美しいって?

夫 ……いや、美しいんだよ。


休憩「発見した男」作:S クロ
 男:平川和宏

男 僕はボージラール街に住んでまして。もう帰らなきゃいけないんです。ですからね、発見したことをお話するといっても、ほんのちょっとしか時間がないんです。
 そりゃ、きれいな街じゃないですよ。でも静かなところでね、頭脳労働者にはもってこいなんです。女房なんかは、まあ、ボージラールは好きじゃないって毎日のように外出しちゃ、パリ中を歩き回って、女友達のアパートだの、買いもしない店だのをウロウロしてるんですが、おかげさまでね、僕は一人きりでこの頭を働かせることができるってわけです。
 実はね、女房には砲兵将校の従兄がいるんですが、いや、ソレこそが事の発端だったんですけどね、この男……


第6夜「春ですね、義兄さん」作:太田省吾「裸足のフーガ」より
 女:石神夏希  男:広田豹

  女、男の脚をまたいで腰の上に座る。

女 花粉がね、あ、蝶々ですもの花粉とはいわないね、なんていうのかしら、羽から落ちていくの、粉が、紫色の。……それが剥がれるようなの、ウロコみたいにね、ゾリゾリと剥がれていってね、落ちていくんです。姉さん、いや。……痛いの、それは痛いんですよ、義兄さん。剥がれたあとが赤肌なの。

男 あいつがやるのか、痛い目にあわせるのか。

女 静かに、義兄さん、おねがいします。おねがい……その声が痛いんです。

男 あいつがか、え、そうなんだな。

女 だって、仕方ないんだもの。そうでしょ、ね、そうなんですもの、蝶々になったりして。痛いんです、義兄さん、さすってください、そっとよ。


第7夜「話してくれ、雨のように…」作:T. ウィリアムズ
 男:甲斐智堯  女:遠藤真美子

女 部屋はうす暗くって、ひんやりとして、聞こえるのはつぶやくような……

男 雨の音?

女 そう、雨の音。

男 それから……?

女 不安が……だんだん……と、消えていく……

男 そう……

女 しばらくすると、おばあちゃんが言うわ、「ベッドができましたよ」って。それであたしは、「どうもありがとう」……ってお財布から一ドル出して、ドアが閉まると、また一人きり。大きな窓に、背の高い、青いシャッター。季節は雨、雨、雨……あたしの人生って、その部屋のよう……うす暗くって、ひんやりとして、聞こえるのはつぶやくような……


第8夜「能動的な線、仲介的な線、受動的な線」作:竹内銃一郎
 谷口省三:稲田恵司  道代:竹尾直子
 幽霊:稲葉浩美

 


第9夜「砂箱」作:E. オールビー
 青年:真胡珠央 ママ:遠藤真美子 パパ:広田豹
 おばあちゃん:瀧川真澄 
 ミュージシャン:水田幾子

パパ 話でもしようか?

ママ (笑って、服から何かつまみ取りながら)話せば? 話したいんだったら……話すことがあるの?……なにか新しいことでも思いついた?

パパ (考えて)いや……別にないよ。

ママ (勝ち誇った笑いで)ほらごらんなさい!

おばあちゃん (シャベルでバケツを叩きながら)はははははは! あははははは!

ママ (客席の向こうを見ながら)静かにして、おばあちゃん……静かに待つの。


第10夜「行ったり来たり」作:S. べケット
 ヴィ:高村志穂 リュ:竹尾直子 フロ:稲葉浩美

フロ リュ。

  沈黙。

   ヴィ。

  沈黙。

   感じるわ、指輪を。

  沈黙。
  暗くなる。

撮影:片桐久文 / (c)2000 labo!, all right reserved

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